鍾羽正

鍾羽正（しょう うせい）

鍾羽正（1554年 - 1637年）は、明代の官僚で、字は叔濂、号は龍淵と称しました。青州府益都県を本貫とします。

生涯

1580年（万暦8年）に進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。最初に滑県知県に任じられると、その優れた統治能力で知られるようになります。その後、中央に召還され礼科給事中となりますが、朝講の中断や有力者の赦免に異を唱え、その直言は聞き入れられませんでした。しかし、その姿勢は一貫しており、後に工科左給事中に転じると、宣府への出向を命じられ辺境の視察を行います。

この時、ハラチン・老把都の諸部が互市歳賜の増額を求めてきた際、羽正の建議が採用され、27万余りの増額が認められました。また、宣府巡撫を務めていた兵部左侍郎の許守謙が賄賂を受け取っていた事実を暴き弾劾、さらに軍事物資を横領していた副総兵の張充実らを罷免させるなど、不正を許さない厳格な姿勢を示しました。

その後、北京に戻り吏科都給事中となった羽正は、礼部侍郎の韓世能や薊遼総督の蹇達らの職務怠慢を弾劾。大理寺少卿の楊四知と洪声遠は罪に問われ左遷される事態となりました。さらに、万暦帝が嫌っていた孟一脈と蔡時鼎の任用を強く推し進めたため、皇帝の意に逆らったとして俸給を剥奪されるなど、権力者にも臆することなく自らの信念を貫きました。

1592年（万暦20年）には、同僚の李献可らと皇長子朱常洛の教育を求める運動を起こしますが、万暦帝の怒りを買い、李献可は官位を剥奪され遠流に処せられます。羽正は、この提議が自身の主導によるものだったと訴え、自らも左遷を願い出て、官を辞することになりました。その後、30年近くもの間、自宅に引きこもり読書三昧の生活を送ったと言われています。

1620年（泰昌元年）、泰昌帝が即位すると、羽正は太僕寺少卿として復帰。すぐに太僕寺卿に進み、再び中央政界で活躍することになります。1622年（天啓2年）には、吏部が左副都御史に任じようとした際、馮従吾に役職を譲り、自らは僉都御史として補佐に徹するなど、謙虚な姿勢を示しました。吏部に入ると、紅丸の案や移宮の案といった過去の政争に関する事後処理を批判し、また、遼東での敗戦の責任を巡る議論では、熊廷弼と王化貞を死刑に処すべきだと主張しました。さらに、鄒元標と馮従吾が時政を議論した首善書院をめぐり、朱童蒙が二人を攻撃した際には、朝廷が書院創設を勧奨していた事実を指摘し、議論を擁護しました。

その後、馮従吾に代わって左副都御史に昇進、さらに戸部右侍郎に転じ、倉場を監督しました。1623年（天啓3年）には工部尚書に任じられますが、宦官への冬衣支給を巡る問題で、1000人以上の宦官が工部に押し入り官署を破壊、官吏を殴打する事件が発生し、その責任を問われ地方への異動を命じられます。羽正は辞職を決意し、三度辞任を願い出て、ついに官を退きました。

1624年（天啓4年）、宦官の霍維華が三案を再審理した際、羽正は東林党の一員として弾劾され、官爵を剥奪されました。しかし、崇禎帝の時代になると官に復帰。1637年（崇禎10年）に84歳で亡くなりました。死後、太子太保の位を追贈されました。著書には『青州風土記』4巻があります。


鍾羽正は、その生涯を通じて、不正を憎み、正義を貫いた人物として知られています。その行動力と信念は、後世にも語り継がれるべきでしょう。

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