鎌倉芳太郎

鎌倉芳太郎：染織家、沖縄文化研究の先駆者

鎌倉芳太郎（1898年 - 1983年）は、日本の染織家であり、沖縄文化研究者としてその名を刻んでいます。美術教師として沖縄に赴任したことがきっかけで、琉球王国時代からの独特な芸術や文化に魅了され、その研究に生涯を捧げました。染織家としては、沖縄の伝統的な染織技法である紅型の技術を深く理解し、その技術を継承。その功績が認められ、重要無形文化財「型絵染」の保持者、いわゆる人間国宝に認定されました。

しかし、鎌倉芳太郎の功績は、染織家としての活動だけにとどまりません。彼は、第二次世界大戦以前に沖縄の文化財を精力的に調査し、数多くの写真やメモを遺しました。これらの資料は、1945年の沖縄戦で壊滅的な被害を受けた沖縄文化の保存や復興に非常に重要な役割を果たしました。戦後の首里城再建においても、鎌倉の残した資料は不可欠なものであり、彼の評伝を著した与那原恵は、鎌倉を「琉球文化全般の最高のフィールドワーカー」と称賛しています。

生涯と業績

鎌倉芳太郎は1898年、香川県に生まれました。東京美術学校（現在の東京藝術大学）で図画師範科を卒業後、沖縄県に渡り、美術教師として教鞭をとる傍ら、沖縄の美術工芸の研究を始めました。その後、東京美術学校の助[[教授]]を務めましたが、1944年に退官し、染織家としての活動を本格化させます。

1972年、沖縄返還に合わせて、鎌倉が撮影した沖縄の写真展が開催され、彼の功績が改めて注目されました。1973年には、長年の功績が認められ、人間国宝に認定されています。1983年に84歳で急逝しましたが、彼の遺した文化財調査の記録は、2005年に国の重要文化財に指定され、2010年には故郷の香川県に顕彰碑が建立されました。

琉球芸術調査と写真

鎌倉芳太郎は、二度にわたる琉球芸術調査を行いました。第一次調査は大正13年から14年、第二次調査は大正15年から昭和2年にかけて実施され、その際に、写真（ガラス乾板1229点、紙焼き写真2952点）、調査ノート81点、型紙などの紅型資料2154点、陶磁器資料67点、総計7512点に及ぶ沖縄の文化・歴史に関する貴重な資料を収集しました。これらの資料は、沖縄戦で大きな被害を受けた沖縄文化の保存と伝承に多大な貢献を果たしました。

彼は、東京美術学校写真科主任の森芳太郎から新即物主義の技法を学び、ドイツ製ダゴールF6.8レンズの四ツ切写真機を3日で使いこなせるようになったと言われています。戦後、写真家の木村伊兵衛からも「大正時代の写真資料として貴重」と高く評価されました。

首里城を守った男

鎌倉芳太郎は、首里城再建に不可欠な資料を提供しただけでなく、かつて首里城が取り壊しの危機に瀕した際にも、その保護に尽力しました。1923年、首里城正殿が内務省によって取り壊されるという情報を得た鎌倉は、建築家の伊東忠太とともに内務省に掛け合い、取り壊しを中止させました。彼の行動がなければ、首里城は失われていたかもしれません。

屋良朝苗とのエピソード

琉球政府行政主席、後の沖縄県知事である屋良朝苗は、沖縄県師範学校での鎌倉の教え子でした。ある時、屋良が図画の実技試験の際に筆記試験を白紙で提出したことから問題になりました。鎌倉は屋良を高く評価していたものの、将来のためを思い、厳しく指導したといいます。

琉球芸術展覧会

鎌倉芳太郎の沖縄研究の成果を広く知らしめるため、1925年に東京美術学校で「琉球芸術展覧会」が開催されました。この展覧会では、鎌倉が収集した工芸品が展示されたほか、伊東忠太、柳田國男などの著名な研究者による講演会も行われました。

本土復帰直前の写真展

沖縄が本土復帰する直前の1972年、鎌倉が保存していたガラス乾板が注目を集め、写真展「50年前の沖縄 - 写真でみる失われた文化財」が開催されました。この写真展は大きな反響を呼び、多くの人々が初めて見る琉球王朝時代の写真に感銘を受けました。

著作

鎌倉芳太郎は、数多くの著作も残しています。『沖縄文化の遺宝』は、彼が撮影した写真と詳細な解説で構成されており、沖縄の文化や歴史を理解する上で非常に重要な資料となっています。その他にも、『東洋美術史』や『琉球の織物』など、幅広い分野で研究成果を発表しました。


鎌倉芳太郎は、沖縄の文化と歴史を深く愛し、その保存と伝承に生涯を捧げた人物です。彼の情熱と努力がなければ、今日の沖縄文化は全く異なる姿になっていたかもしれません。彼の業績は、後世に語り継がれるべき、不朽の遺産と言えるでしょう。

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