長坂好子

長坂好子

長坂好子（ながさか よしこ、1891年5月29日 - 1970年9月30日）は、日本の声楽家（ソプラノ）であり、優れた音楽教育者としても知られています。日本の洋楽が黎明期を迎えた時代に、その発展に大きく貢献しました。

生涯

愛知県名古屋市に生まれた長坂好子は、1914年に東京音楽学校（現在の東京藝術大学）を卒業しました。声楽を三浦環に師事し、その才能を開花させました。卒業後、ソプラノ歌手として精力的な活動を開始し、数多くの演奏会に出演しました。1915年には、下半期だけで5回の演奏記録が残っており、同年10月には神田青年会館での音楽会に出演しています。1916年には、皇后行啓演奏会で御前演奏を行うという栄誉にも浴しました。

1920年には、東京音楽学校の定期演奏会や南葵樂堂でのベートーヴェン生誕150年記念音楽会など、重要な演奏会に立て続けに出演しました。1924年には、東京音楽学校奏楽堂でベートーヴェンの『第九』が日本初演された際、ソリストの一人としてその歴史的な瞬間に立ち会いました。また、1929年の日比谷公会堂開場記念演奏会や、1933年のブラームス『ドイツ鎮魂曲』日本初演など、日本の音楽史に残る重要な演奏会でソリストを務めました。

音楽教育者としての長坂好子の活動も特筆すべきものです。1919年から1922年までの間には、東京女子高等師範学校（現在のお茶の水女子大学）で教鞭を執っていました。1926年から1928年には、文部省派遣留学生としてイタリアに留学し、ソルディーニに師事。1934年には母校である東京音楽学校の教授に就任しました。その後も、1934年から1935年にかけてイタリアとドイツに留学し、研鑽を積みました。

長坂好子は、演奏活動の傍ら、後進の育成にも力を注ぎました。1938年には日本音楽コンクールの声楽部門審査員を務め、また、女声合唱団「むらさき会」を組織したり、「コーロ・フローラ」を指導するなど、合唱音楽の発展にも貢献しました。

戦時中は、日本演奏家協会や日本音楽文化協会の理事を務めましたが、戦局の悪化に伴い、1944年に東京音楽学校教授を辞任しました。戦後は、演奏活動から退き、後進の指導に専念し、多くの優秀な音楽家を育成しました。

1970年、79歳でその生涯を閉じましたが、彼女が日本の音楽界に残した功績は計り知れません。

門下生

長坂好子は、教育者としても非常に優れており、彼女の門下からは多くの著名な音楽家が輩出しました。

関屋敏子
大橋國一
鈴木寛一
岡部多喜子
高柳二葉
有村祐輔
呂赫若
蝦名雅美
松田トシ（松田敏江）
浅野千鶴子
杵島純子
村井満寿
石崎宏男
比留間きぬ子
横井和子
安西愛子
小島琢磨
嶺貞子

家族

夫は洋画家の長坂春雄です。

著書

『女子中等音楽教科書 全4冊』 (1935年 冨山房)

主なディスコグラフィー

長坂好子の歌声は、以下のレコードに記録されています。

独唱：『エレジー』 （1933年 コロムビア）
独唱：『浜辺の歌』 （1933年 コロムビア）
独唱：『ジョセランの子守唄』 （1934年 コロムビア）
独唱：『古戦場の秋』 （1934年 コロムビア）


これらのレコードは、教育用レコードとして発売されました。

掲載記事

長坂好子に関する記事は、以下の雑誌や書籍に掲載されています。

『月刊楽譜』 1932年2月号
『婦女界』 1932年7月号
『月刊楽譜』 1934年7月号
『月刊楽譜』 1935年10月号
『婦女界』 1937年2月号
『アルス音楽大講座 第8巻』 (1939年 アルス)
『音楽の友』 1964年3月号
『婦人之友』 1964年9月号
『音楽の友』 1965年12月号

これらの記事を通じて、長坂好子の音楽活動や人物像を知ることができます。


長坂好子は、その卓越した歌唱力と教育者としての情熱によって、日本の音楽界に多大な貢献を果たしました。彼女の遺した功績は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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