長壁姫

長壁姫（おさかべひめ）

長壁姫は、日本の妖怪の一種で、特に姫路城に棲むと伝えられています。その呼び名は時代や文献によって異なり、小刑部姫、刑部姫、小坂部姫などとも呼ばれます。

物語の中の長壁姫

長壁姫は、江戸時代から現代に至るまで、様々な物語や作品に登場しています。それぞれの作品で、彼女の姿や役割は異なり、多様な解釈がなされてきました。

江戸時代の作品

『諸国百物語』（1677年）: この怪談集では、「城ばけ物」として登場し、男女様々な姿で現れます。ある話では、天守閣で病気平癒の祈祷をしていた阿闍梨に対し、30歳ほどの妖しい女が現れて退散を命じ、拒否されると6メートルもの鬼神に変じて阿闍梨を殺害したとされています。また、別の話では、姫路城主が若侍に天守の不審な灯りを確認させたところ、女が現れて櫛を渡したという記述もあります。

『西鶴諸国ばなし』（1685年）: 井原西鶴のこの作品では、「於佐賀部」として登場し、800匹の眷属を操り、人の心を読み、もてあそぶ妖怪として描かれています。

『播州皿屋敷』（1741年）: 青山鉄山を悩ます怪異「八天狗刑部」として登場します。

『老媼茶話』（1742年）: 猪苗代城の妖姫「亀姫」と近縁の化け物として併記されています。姫路城主の小姓が天守閣で出会った気高い女性から、肝試しの証拠として錣を貰ったという話が語られています。

『今昔画図続百鬼』（1779年）: 鳥山石燕によって描かれたこの作品では、「長壁」として、コウモリを従えた老姫の姿で描かれています。

『夭怪着到牒』（1788年）: この黄表紙では、「おさかべ」として登場し、彼女の顔を見た者は命を落とすとされています。

『甲子夜話』: 松浦静山の随筆には、長壁姫（ヲサカベ）が姫路城の天守に住み、年に一度だけ老婆の姿で城主と会うと記されています。また、姫路では「ハッテンドウ」と呼ばれているという記述もあります。

近現代の作品

『今古實録 増補英雄美談』: 宮本武蔵が姫路城で小刑部姫に化けた古狐を退治する物語が描かれています。武蔵が悪狐を退治するエピソードは、姫路市の地元で昔話として広まっており、武蔵の妖怪退治の逸話として親しまれています。

『天守物語』: 泉鏡花の戯曲では、亀姫とは義理の姉妹として描かれています。

『小坂部姫』: 岡本綺堂の作品では、小坂部姫は高師直の娘として設定されています。

長壁姫の正体

長壁姫の正体については、様々な説が存在します。老いたキツネ、井上内親王が息子である他戸親王との間に産んだ不義の子、伏見天皇が寵愛した女房の霊、姫路城のある姫山の神、築城の際に人柱となった女の変化など、多くの説が唱えられています。

長壁姫の由来

姫路城が建つ姫山には、元々「刑部大神」の社がありました。豊臣秀吉が築城の際にこの社を移したことが、長壁姫伝説の起源であると考えられています。城の神であり、城主の行いによっては祟ると考えられていました。池田輝政が城を改修した際、天狗の書状が見つかり、八天堂を建立して大八天狗を祀るように警告されたという逸話もあります。また、輝政の病気が刑部大神の祟りであるという噂が流れ、八天堂に刑部大神が遷座されたと伝えられています。民俗学的な視点からは、長壁を蛇神とする説も存在します。

前橋市の伝承では、松平朝矩が姫路から前橋へ転封する際、長壁神社を前橋城に奉遷しようとしたが、長壁の祟りを恐れて断念したという話が残っています。

このように、長壁姫は時代や地域によって様々な姿や伝承を持つ、興味深い妖怪です。

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