松平朝矩

松平朝矩：激動の時代を生きた大名の生涯

松平朝矩（まつだいら とものり）は、江戸時代中期に生きた大名であり、播磨姫路藩、上野前橋藩、武蔵川越藩の藩主を歴任しました。結城松平家5代当主であり、松平明矩の長男として生まれました。

生い立ちと家督相続

元文3年（1738年）に陸奥白河藩主・松平明矩の長男として生まれた朝矩は、寛保元年（1741年）に父の明矩が姫路藩へ転封となったことで、幼少期を姫路で過ごします。寛延元年（1748年）11月27日、11歳の時に父が急死し、翌月27日に姫路藩15万石を相続します。しかし、その直後から姫路藩では大規模な農民一揆が発生し、朝矩は藩主として難しいスタートを切ることになります。

この一揆は、寛延元年の干魃と台風による被害が原因でした。藩は年貢の納期の延期を認めましたが、農民たちは年貢の減免を求めて強訴しようとしました。この一揆が直接的な原因ではありませんでしたが、朝矩は間もなく姫路を離れることになります。

前橋藩への転封と治水問題

姫路は西国を抑える要地であり、幼少の藩主は他国へ転封させるという不文律がありました。曾祖父の松平直矩も幼少を理由に姫路から越後村上藩へ移封されています。朝矩もまた、「幼少の朝矩には姫路藩主は不適当」と判断され、寛延2年（1749年）1月15日、前橋藩主で幕閣の重鎮であった酒井忠恭との入れ替えで、前橋15万石への転封を命じられます。

前橋藩は利根川の洪水に悩まされる土地でした。前橋城は利根川を利用した天然の要害でしたが、同時にその激流によって城地の浸食が進み、朝矩の時代には本丸にまで浸水するほどでした。かねてからの財政難も重なり、城の再建を断念せざるを得ませんでした。

川越への移封と晩年

明和4年（1767年）閏9月15日、本丸崩壊の危機を受け、朝矩は幕府の許可を得て居城と藩庁を前橋から川越へ移します。前橋城周辺の前橋領は川越藩の代官支配となり、前橋城は明和6年（1769年）に廃城・破却されました。

明和5年（1768年）6月10日（『松平家譜』による。『徳川実紀』によれば12日）、朝矩は川越にて31歳で死去しました。家督は次男の直恒が継ぎました。墓所は川越喜多院にあります。

人物

朝廷への使者に内定されたことがありましたが、幕府内での序列を考慮した井伊直幸の工作により、内定が覆されるという出来事もありました。

前橋藩主時代には、度重なる利根川の洪水に悩まされ、城の維持にも苦労したことが、川越への移封の背景にありました。

系譜

父：松平明矩（1709-1748）
母：成田氏（田畑氏とも）
正室：峯 - 山内豊敷の娘
継室：土 - 藤井兼矩の娘
次男：松平直恒（1762-1810）
室：大久保氏
長男：土井利建（1759-?）
室：山田氏
男子：松平矩峯
男子：秋山正修
男子：高力直延
生母不詳の子女
女子：喜佐姫 - 津軽信明正室

官歴

1749年（寛延2年）：将軍家初御目見。従四位下・大和守
* 1765年（明和2年）：侍従

松平朝矩は、若くして藩主となり、相次ぐ困難に見舞われながらも、藩政に尽力しました。その生涯は、江戸時代中期の大名が抱える苦悩と、時代の変化を象徴していると言えるでしょう。

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