長尾房長

長尾 房長（ながお ふさなが）

長尾房長は、戦国時代に越後国で活躍した武将です。上田長尾家の第六代当主であり、後の上杉景勝の祖父にあたる人物として知られています。

出自と家督継承

房長は、上田長尾氏の当主であった長尾憲長の子として生まれました。母は上杉氏の出身と伝えられています。家督の継承については、大永六年（一五二六年）三月、養父にあたる長尾顕吉（房長の叔父であり、母の再婚相手）の没後に継承されたと伝えられています。上田長尾新左衛門尉の子孫であるというのが一般的な見方ですが、その出自には複数の異説が存在します。『系図纂要』など一部の系図では、名を「房景」とし、長尾能景の子で、越後長尾氏の実権を握った長尾為景とは兄弟にあたるという記述も見られます。また、『古代氏族系譜集成』では、父を景隆とし、嫡男である長尾政景とは兄弟の関係にあるとする系図も存在しており、その系譜については諸説ある状況です。

長尾為景との関係と対立

越後における長尾氏の有力な一族である上田長尾家の当主でしたが、越後府中を拠点とし大きな勢力を築いていた長尾為景とはしばしば敵対関係にありました。永正四年（一五〇七年）の長尾為景による越後守護・上杉房能の追放以降、越後国内は混乱が続いていましたが、房長と為景の対立はその国内情勢を反映したものでした。特に、永正十一年（一五一四年）に関東管領である上杉顕定が為景討伐のために越後に侵攻してきた際には、房長は顕定側に味方し、為景軍を破る戦功を挙げました。しかし、為景がその後勢力を盛り返すと、房長はこれに降伏し、その家臣団に加えられることとなりました。以後、房長は為景、その長男である晴景、そして晴景の養子となった景虎（後の上杉謙信）という、三代にわたる長尾氏当主に仕えることとなります。

天文年間の動向と和睦

為景への従属後も、国内の不穏な情勢の中で房長の立場は揺れ動くことがありました。天文四年（一五三五年）正月、越後国内で長尾為景に対して挙兵した上条定憲の動きに呼応し、房長は再び反為景の姿勢を明確にしました。上田衆を率いて、為景方の武将である福王寺孝重が守る下倉山城を攻撃するなど、積極的な攻勢を展開しました。この対立は、為景が長男の晴景に家督を譲り隠退した後も続きました。しかし、天文六年（一五三七年）に入ると、事態は和平へと向かいます。房長の嫡男である長尾政景と、長尾為景の娘（後の上杉景勝の母）との婚姻が成立したのです。この婚姻は、それまで対立を続けていた上田長尾家と越後長尾家との間の強力な結びつきを生み出し、両家の停戦と和睦の象徴となりました。この政略結婚は、後の上杉景勝の誕生へと繋がり、上杉家、そして戦国史における房長の重要な立ち位置を示す出来事となりました。

晩年と家督継承

長尾為景との和睦後は、越後長尾家における地位を確立し、安定した立場を保ったと考えられます。天文二十一年（一五五二年）に死去しました。その跡は、為景の娘を正室に迎えた嫡男の長尾政景が継承し、上田長尾家の当主として越後国内で重要な役割を担っていくこととなります。長尾房長は、越後における戦乱の時代において、同族内の抗争を乗り越え、政略結婚を通じて後世に続く上杉景勝の血筋を残した人物として、その名を歴史に刻んでいます。

参考文献

今福匡「越後長尾氏と上杉謙信の閨閥 -「越後長尾殿之次第」の検討を通して -」（渡邊大門編『戦国・織豊期の諸問題』歴史と文化の研究所、二〇一七年）
池亨『上杉謙信の本音』（吉川弘文館、二〇二四年）

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