長尾景英

長尾 景英（ながお かげひで）

長尾景英は、日本の戦国時代に活躍した武将です。関東地方の有力な武家である山内上杉家に仕え、その家臣である白井長尾氏の第六代当主を務めました。

略歴

景英は、父である長尾景春と共に、主君にあたる山内上杉家当主の上杉顕定に対し反旗を翻しました。しかし、本拠地としていた上野国の白井城が顕定によって奪還されたこと、そして景春父子が頼みとしていた古河公方の足利政氏が上杉顕定と和睦したことを機に状況が変化します。

父・景春が、あくまで顕定に対抗するため扇谷上杉氏を頼ろうとしたのに対し、景英はこれに反対しました。そして、明応5年（1495年）頃までに父の下を離れて上杉顕定に帰順します。これにより、景英は山内上杉家の重臣の一人に列せられることになりました。

長享の乱が終結し、追い詰められた父・景春もまた、永正2年（1505年）に顕定に降伏しました。

しかし、永正7年（1510年）になると、景春は密かに越後国の長尾為景や相模国の伊勢宗瑞（後の北条早雲）といった勢力と連携し、顕定が越後へ出兵した隙を突いて再び兵を挙げます。同年7月、上杉顕定が越後で戦死すると、父・景春は顕定の養子で白井城を引き続き押さえていた上杉憲房とも争うことになりました。

この状況下で、景英は父景春とは逆の行動をとります。景英は憲房に対し、同じく顕定の養子であった上杉顕実から関東管領の地位を奪うように進言しました。これは、山内上杉家内部で顕房方と顕実方が争った「永正の乱」へと繋がります。

この一件により、景英と父景春の間の対立はさらに激化し、景春は最終的に出奔しました。一方、景英は憲房を積極的に支援し、顕実を追放することに功績を挙げたとされています。その功労として、憲房によって白井城を返還されたと考えられていますが、その正確な時期は判明していません。憲房が勝利した永正9年（1512年）から、景英が大永4年（1524年）に家督を譲るまでの間の出来事とされています。

大永4年（1524年）の時点では、景英は既に家督を嫡男である長尾景誠に譲っていたと推測されています。

生母について

景英の生母については、「双林寺伝記」という記録に長尾定景の娘と記されています。しかし、歴史研究家の黒田基樹氏は、長尾定景が若くして亡くなり妻子がいなかった可能性が高いことや、長尾氏の主要な系図では景春の妻はいずれも沼田氏の出身とされている点を指摘しています。

黒田氏の説では、景英の母は沼田氏出身であり、「双林寺伝記」が景英の正室が足利長尾氏出身であったことを母親と取り違えたのではないかと推測しています。また、この記録は景英以降の白井長尾氏当主についても、「室」を「母」と誤って記載している可能性があると論じています。

長尾景英の生涯は、戦国時代の動乱期にあって、父との複雑な関係の中で自らの立場を選択し、山内上杉家の権力構造の変化に対応しながら、白井長尾氏の存続と勢力維持を図った軌跡といえるでしょう。

出典: 黒田基樹 著「長尾景春論」（黒田基樹 編『中世関東武士の研究 第一巻 長尾景春』戒光祥出版、2010年）

もう一度検索