長征2号F

長征2号F (Long March 2F)

「長征二号F火箭」（長征2号F）は、中華人民共和国が開発した長征シリーズの有人宇宙ロケット（ローンチ・ヴィークル）です。主に有人宇宙船である神舟を軌道へ投入する目的で使用されています。

開発経緯と特徴

長征2号Fは、先行する長征2号Cを改良した長征2号Eを基に開発されました。長征2号Eと比較して、外見は似ているものの、有人ミッションに対応するための重要な変更が加えられています。特に、重い神舟カプセルを安全に支えるための構造強化に加え、安全性の向上を目的としたシステムの冗長化が図られています。また、第1段にブースターを追加することで、より重いペイロードを打ち上げる能力を獲得しました。有人ロケットとして最も特筆すべき機能は、緊急時に宇宙飛行士を速やかに脱出させるための「故障検知・診断システム」の搭載です。さらに、このロケットは中国のロケットとしては初めて、組み立て工場から発射地点まで垂直な状態で輸送される方式を採用しています。

実績と命名

長征2号Fの最初の飛行は1999年11月19日に行われ、無人の神舟1号を打ち上げました。その後、神舟3号の打ち上げ成功を受け、当時の江沢民総書記によって「神の矢」を意味する「神箭」（Shenjian）という別名が与えられました。

このロケットは、中国の有人宇宙飛行の歴史において中心的な役割を果たしています。特に2003年10月15日には、楊利偉宇宙飛行士を乗せた神舟5号を打ち上げ、中国初の単独での有人宇宙飛行を成功に導きました。以降、神舟14号までの有人ミッションを含む、多くの重要な宇宙計画で信頼できる打上げ手段として運用され続けています。

技術的課題とその克服

初期の飛行では、特に神舟5号の打上げ時に大きな振動が発生し、搭乗していた楊利偉宇宙飛行士が体調不良を訴えるという問題が発生しました。改良が施されたものの、神舟6号のミッションでも振動が報告され、更なる改善が必要となりました。長征2号Fの主設計者である劉竹生氏によれば、振動問題に対処するため、ロケットエンジンのパイプラインの設計変更や振動数の調整が実施されました。特に、蓄圧器の新しい設計が振動の一因となっていたようで、これらの改良によって振動は50パーセント以上軽減されたと報告されています。こうした技術的な課題への継続的な取り組みにより、ロケットの信頼性と安全性が高められています。

主要諸元

長征2号Fの主要な構成要素および諸元は以下の通りです（第0段LRBは液体ロケットブースター）。

第0段 (LRB)

総質量: 41,000 kg
空質量: 3,200 kg
推力: 4基合計で814 kN × 4
比推力: 291秒 (2.9 kN-s/kg)
燃焼時間: 128秒
直径: 2.3 m
翼幅: 8.0 m
長さ: 15.3 m
推進剤: N2O4（四酸化二窒素）/ UDMH（非対称ジメチルヒドラジン）
エンジン: YF-20B × 1基（各ブースター）
使用数: 4基

第1段

総質量: 196,500 kg
空質量: 9,500 kg
推力: 3,256 kN
比推力: 289秒 (2.8 kN-s/kg)
燃焼時間: 166秒
直径: 3.4 m
長さ: 23.7 m
推進剤: N2O4 / UDMH
エンジン: YF-20B × 4基

第2段

総質量: 91,500 kg
空質量: 5,500 kg
推力: 831 kN
比推力: 289秒 (2.8 kN-s/kg)
燃焼時間: 300秒
直径: 3.4 m
長さ: 15.5 m
推進剤: N2O4 / UDMH
* エンジン: YF-25 / YF-23

長征2号Fは、その登場以来、中国の有人宇宙開発計画の要として、宇宙への確実なアクセス手段を提供し続けています。

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