長者山城 (安芸国)

長者山城とは

長者山城（ちょうじゃやまじょう）は、広島県東広島市志和町奥屋、広島市安芸区瀬野町、広島市安佐北区狩留家町にまたがる長者山の北東に位置する無名峰に築かれた古代山城です。この山城は、神籠石系山城に分類されますが、史跡としての指定はされていません。2019年に発見された比較的新しい遺跡であり、その詳細はまだ解明されていない部分が多くあります。

概要

長者山城は、長者山（標高571メートル）から北東に伸びる尾根の先端部、標高605メートルの無名峰の上に築かれています。この場所は、志和盆地の南西端に位置し、中世の山城である長者屋敷と重なる部分があります。長者山城は、文献に記録がない古代山城であり、その城名は後世に付けられたものです。城は、馬蹄形に伸びる尾根に沿って城壁が築かれ、谷状の地形を囲むように構成されています。

城壁は、土を盛り上げて作られた土塁を基本としており、一部には列石や石を積み上げた構造も見られます。特に、城門（長者門）は、列石と石築によって造られています。城壁の一部はほぼ完成しているものの、未完成の部分も残っており、築城が初期段階で中断された可能性も指摘されています。残念ながら、これまでの調査では出土遺物は確認されていません。

歴史

古代

長者山城は、文献に記録がないため、築城時期や目的など、詳しい歴史は不明です。しかし、天智天皇2年（663年）の白村江の戦い頃、朝鮮半島での緊張が高まった時期に、九州北部や瀬戸内、近畿地方で古代山城が築かれた事例があり、長者山城もその一つであると考えられています。城が位置する地域は、古代には安芸国賀茂郡と安芸郡の境界にありました。山麓の志和盆地には大型古墳が見られないことから、この地域は当時、在地勢力が小さい過疎地であったと推測されています。

中世

中世には、無名峰の頂部に山城が築かれ、「長者屋敷跡」と呼ばれています。この山城は、尾根に沿って郭が配置された中世城郭の特徴を持っており、一帯は志和の天野氏と瀬野川の阿曽沼氏の境界地域であったと考えられています。南側を重視する構造から、天野氏によって築城された可能性が高いとされています。

近世

文政8年（1825年）に完成した広島藩の地誌『芸藩通志』には、賀茂郡の「奥屋村絵図」に、石門らしき遺構が描かれています。これは、長者山城の遺構を示唆するものと考えられています。

近代以降

近代以降の長者山城に関する記録は以下の通りです。

1924年（大正13年）: 『西志和村誌』に、「門口」に関する記述が見られます。
2019年（平成31年）: 平成30年7月豪雨の災害復旧事業に伴う赤色立体地図の整備中に、東広島市教育委員会によって古代山城として発見されました。
2023-2024年（令和5-6年）: 古代山城研究会による踏査と記録が行われ、2024年にその報告書が発表されました。
2024年（令和6年）1月29日: 長者山城の発見が報道され、古代山城の空白地帯であった安芸国での新たな発見として注目を集めました。

遺構

城壁

城壁は、全長約2.4キロメートルに及びます。その大部分は土塁で、幅3〜5メートル程度であり、列石は見られません。城壁にはほぼ完成している部分がある一方で、構築の痕跡がない部分もあり、築城が中断された可能性を示唆しています。

城門（長者門）

城域の南部の尾根鞍部にある長者門は、『西志和村誌』では「門口」と呼ばれていました。現在では「長者門」と呼ばれています。この門は、大きな石を並べた列石と石を積み重ねた石築によって構築されています。列石の中央部は、道のように開いており、門の道幅は、城外側で4.7メートル、城内側で7.4メートル、中央部で約5メートルとなっています。門道の長さは、右側が12.3メートル、左側が13.6メートルで、城内側に向かって幅広くなっている平面形が特徴です。列石や石築の上には、版築などの盛土は確認されていません。石材にはL字状のカットが施されています。

『西志和村誌』には、長者門から1.2キロメートル下った場所にある「瀧の宮跡」に築地があったと記述されており、現在の長者の滝がある谷の出口付近に水門の役割を持つ石塁が存在した可能性がありますが、現在は流失しています。

まとめ

長者山城は、古代の歴史を今に伝える貴重な遺跡です。文献記録がなく、その全貌はまだ謎に包まれていますが、今後の調査によって、古代日本の歴史がさらに解明されることが期待されます。

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