阿曽沼氏

阿曽沼氏：武士の一族の興亡

阿曽沼氏（あそぬまし）は、藤姓足利氏の流れを汲む武士の一族です。足利有綱の四男である阿曽沼四郎広綱を祖とし、佐野氏族に属します。その名は、下野国安蘇郡阿曽沼（現在の佐野市浅沼町）を領したことに由来します。

源平合戦から鎌倉幕府へ

治承・寿永の乱（源平合戦）において、本家の藤姓足利氏が平家方についたのに対し、阿曽沼氏は同族の山上氏や大胡氏らと共に源頼朝軍に味方し、鎌倉幕府のもとで御家人となりました。広綱は父の有綱や兄の佐野基綱と共に小山朝政に加勢し、志田義広や宗家の足利俊綱・忠綱父子を打ち破る功績を挙げました。文治5年（1189年）の奥州合戦にも参加し、その功績により陸奥国閉伊郡遠野保の地頭職に任じられました。

広綱の子である朝綱は下野国の本領を継いだとされますが、子がいなかったため、弟の親綱の子・光綱が跡を継ぎました。阿曽沼城を拠点としていたと考えられています。戦国時代には佐野氏の家臣となり、阿曽沼与重の名が見られます。

遠野阿曽沼氏

広綱の子で朝綱の弟である親綱は、陸奥の遠野保を継承しました。遠野保は遠野十二郷とも呼ばれ、親綱が下向したと伝えられていますが、実際には代官統治が行われていたと考えられています。その後、その子孫が奥州遠野に土着し、建保年間（1213～19年）には広綱の次男である親綱が護摩堂山に横田城を築き、そこを統治の中心としました。建武元年（1334年）には、親綱から数えて4代後の朝綱の代に、南朝に属していた陸奧国司北畠顕家によって「遠野保」の所有を安堵されました。天正年間（1573～92年）の初め、広郷の時代に横田鎌倉城を拠点として最盛期を迎えましたが、天正18年（1590年）の豊臣秀吉による小田原征伐に参陣しなかったため、所領を没収され、南部氏の配下となりました。

阿曽沼一族の内紛と遠野阿曽沼氏の終焉

広郷の子である孫三郎広長の代には、慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いの際、南部利直に従って上杉景勝攻めの最上出陣中に、一族の鱒沢城主・鱒沢広勝、横田城留守居役・上野広吉、平清水平右衛門の三人が主家に反逆し、それに与しなかった上附馬火渡館主・火渡玄浄を討ちました。岩崎での戦いを終えて遠野に帰還した広長は、鍋倉城を占領され、領地の遠野を奪われて入城できず、妻子も脱出の途中で殺害されました。

広長は妻の実家がある気仙郡世田米城に逃れ、伊達氏などの支援を受けて気仙勢を借り受け、三度にわたって遠野に攻め込み奪回を図りましたが失敗し、広長は伊達領に身を寄せて生涯を終え、遠野阿曽沼氏の嫡流は断絶しました。その後、遠野の所領を安堵された鱒沢氏らも謀叛を企てたとされ、南部利直によって切腹を命じられ滅亡しました。

庶家

阿曽沼氏からは、以下の庶家が派生しました。

鱒沢氏：阿曽沼光綱の次男、守綱が始祖。
太田氏
上野氏：綾織村上野（遠野市）に居住し、氏を名乗る。
大槌氏：室町初期以来、閉伊郡南方沿岸に勢力を持っていた豪族。

阿曽沼興廃記

享保年間（1716-36年）に宇夫方平大夫広隆によって著述された遠野阿曽沼氏の興亡史で、上下2巻から構成されています。南部叢書 第3巻に収録されています。

安芸阿曽沼氏

承久の乱後、親綱は安芸国世能荒山荘を得ました。この安芸国にも阿曽沼氏は土着し、親綱の孫である光郷の子孫とされています。中野村鳥籠山を拠点とし、南北朝時代から観応の擾乱まで一貫して幕府方に属しました。その後、大内氏の影響下に入り、応仁の乱や尼子氏との戦いに参加しました。阿曽沼広秀の時代には毛利氏に属し、江戸時代に入ると長州藩士として続きました。

阿曽沼氏の歴史は、一族の繁栄と没落、そして各地への広がりを示すものであり、日本の歴史における地方豪族の興亡を象徴するものと言えるでしょう。

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