長谷川幸延

長谷川 幸延

長谷川 幸延（はせがわ こうえん）は、1904年2月11日に大阪府大阪市北区曾根崎で生まれた日本の小説家、劇作家です。大阪の風情や人情を描いた作品で知られ、幅広い分野で活躍しました。

劇作家から小説家へ

地元の小学校を卒業後、満19歳を迎えた1923年、初めて執筆した戯曲『路は遥けし』が新派の劇団によって大阪・中座で上演され、劇作家として第一歩を踏み出します。この成功を機に、演劇の世界での才能を開花させました。

1925年には、社団法人大阪放送局（現在のNHK大阪放送局）の嘱託となり、ラジオドラマの制作にも携わるようになります。新しいメディアであるラジオを通して、その物語世界を広げていきました。

しかし、彼の活動の主軸は小説へと移っていきます。1939年に小説家を志して東京に拠点を移し、大衆文学の大家である長谷川伸のもとに師事しました。ここで作家としての基礎をさらに固め、創作活動に専念するようになります。

直木賞と受賞歴

東京での活動が実を結び、1940年には文藝春秋の『オール讀物』に掲載された小説『法善寺横町』が第12回直木賞に初めてノミネートされました。大阪・法善寺横町を舞台にしたこの作品は大きな反響を呼びました。

その後も、『冠婚葬祭』（第13回）、『桂春団治』（第26回）など、生涯で合計7回にわたり直木賞の候補となりましたが、残念ながら受賞には至りませんでした。しかし、その文学的評価は高く、1942年には『冠婚葬祭』で新潮社文芸賞を受賞しています。

文学賞以外でも評価を受け、1960年には芸術祭奨励賞（テレビ部門）を受賞、1968年には大阪芸術祭賞を受賞するなど、多岐にわたる功績が認められました。

作品のメディア展開

長谷川幸延の作品は、その物語性の豊かさから早くから様々なメディアで展開されました。

彼の小説が初めて映画化されたのは、1942年の大映東京第一撮影所による『八処女の歌』です。以後、多くの作品が映画化され、特にマキノ雅弘監督とは縁が深く、『千日前附近』、『殺陣師段平』、『やぐら太鼓』、『人生とんぼ返り』、『色ごと師春団治』などを手掛けています。他にも成瀬巳喜男監督の『芝居道』、滝沢英輔監督の『喧嘩安兵衛』など、名だたる監督によって映画化されました。

また、直木賞候補作『冠婚葬祭』は、後に鈴木則文監督によって『大阪ど根性物語 どえらい奴』（1965年）として映画化されました。初代 桂春団治をモデルにした人気小説『桂春団治』も、木村恵吾監督（1956年）、マキノ雅弘監督（1965年）と、二度映画化されています。

テレビジョン放送黎明期には、オリジナルテレビドラマ『かんてき長屋』なども手掛け、時代の変化にも対応しながら活動を続けました。

作風と遺産

長谷川幸延の作品は、生まれ故郷である大阪の街並み、そこに生きる人々の情愛、風俗、そしてユーモアを、温かい眼差しで描いたものが多数を占めます。『法善寺横町』や『千日前』といった具体的な場所を舞台にした作品は、当時の大阪の活気や人情を今に伝えています。

主な著書には、『法善寺横町』、『冠婚葬祭』、『桂春団治』のほか、『笑ふ兵隊』、『大阪風俗』、『寄席行灯』、『大阪歳時記』、『たべもの世相史・大阪』、『大阪芸人かたぎ』などがあり、小説、戯曲、随筆といった様々なジャンルにわたります。

1977年6月27日、73歳で波乱に富んだ生涯を閉じました。彼の作品は、演劇、ラジオ、映画、テレビと多様なメディアを通じて多くの人々に届けられ、特に大阪を舞台にした人間ドラマの書き手として、その名を日本の文芸史に刻んでいます。墓所は、ゆかりの深い大阪の長柄墓地にあります。

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