長谷川潾二郎

長谷川潾二郎：画家と探偵小説家の二つの顔

長谷川潾二郎（1904-1988）は、日本を代表する画家の一人です。特に、愛猫を繊細に描いた作品群で広く知られています。しかし、彼の才能は絵画だけに留まりません。彼は「地味井平造」というペンネームで、数々の探偵小説を発表した小説家でもあったのです。

函館からパリへ：画家としての歩み

1904年、北海道函館市に生まれた潾二郎は、作家として活躍した長谷川海太郎を兄に持つ一家に育ちました。旧制函館中学（現・北海道函館中部高等学校）卒業後、画家を志して上京。探偵小説家・編集者として知られる水谷準と下宿で共同生活を送るなど、若い頃から芸術家としての道を歩み始めました。

画技を磨くため、1931年にはパリへ留学。当初は数年滞在する予定でしたが、約1年で帰国しました。帰国後は、日本の風景や静物、そして愛猫を題材にした作品を数多く制作。その画風は、静謐で独特の雰囲気を醸し出しています。代表作として、『猫』（愛猫タローを6年かけて描いた作品）、『ハリストス正教会への道』（地元函館の風景）、『窓とかまきり』、『バラ』などがあります。これらの作品の一部は、宮城県美術館の洲之内コレクションや、岡崎市美術博物館の藤井コレクションに収蔵され、現在も人々を魅了しています。2010年にはポストカード、2011年と2012年にはカレンダーとして彼の作品が商品化されるなど、現在も高い人気を誇ります。

ジミー・ヘイズから地味井平造へ：探偵小説家としての活動

画家としての活動と並行して、潾二郎は探偵小説家としても活躍しました。ペンネームは「地味井平造」。これは、兄である海太郎がアメリカ滞在中に使用していた「ウィリアム・ヘイズ」をもじったものと言われています。

彼の探偵小説は、主に『探偵趣味』や『新青年』といった雑誌に発表された短編作品です。「煙突奇談」「二人の会話」「X氏と或る紳士」「魔」「顔」「不思議な庭園」「水色の目の女」「人攫い」など、多くの作品を残しました。これらの作品は、独特の雰囲気と緻密な構成で知られており、現在でも愛好家が多く存在します。水谷準の勧めで執筆を始めたこれらの作品は、画家としての活動が本格化するにつれ次第に減っていきましたが、1939年に水谷が『新青年』の編集長になっていたことをきっかけに、再び数編を発表しています。

画家と小説家：二つの顔と静かな生涯

長谷川潾二郎は、画家と探偵小説家という二つの顔を持つ稀有な存在でした。どちらの活動も、彼の繊細な感性と独特の視点が反映されており、現在も多くのファンを魅了し続けています。彼の作品は、静謐で奥深い世界観を表現し、観る者・読む者の心を穏やかに満たしてくれることでしょう。2010年には『平明･静謐･孤高－長谷川潾二郎展』が開催され、2016年には岡崎市美術博物館で『藤井コレクション 長谷川潾二郎展』が開催されるなど、没後も高い評価を受けています。彼の生涯と作品は、これからも多くの人々に、静かな感動と謎を与え続けることでしょう。

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