開禧用兵

開禧用兵（かいきようへい）

開禧用兵は、南宋の寧宗の時代、開禧2年（1206年）に、権力者であった韓侂冑（かんたくちゅう）が主導して開始された、金に対する北伐です。開禧北伐とも呼ばれます。

背景

韓侂冑は、寧宗の擁立に貢献し、外戚として権勢を振るいました。しかし、政敵である趙汝愚（ちょうじょぐ）を陥れて追放し、趙汝愚派とされた朱熹（しゅき）を中心とする道学を弾圧した慶元の党禁（けいげんのとうきん）によって、内外からの反発を招いていました。そこで、韓侂冑は失墜した自らの名誉を回復するため、かねてより金への北伐を計画しました。

当時、金は北方で勢力を拡大するモンゴルの脅威に晒されており、国力が弱まっているという情報がありました。韓侂冑は、この機に乗じて北伐を敢行しようと目論んだのです。

開戦

1204年、かつて金との講和に反対して処刑された岳飛（がくひ）に鄂王（がくおう）の称号が贈られ、反金感情が高まります。そして1205年、韓侂冑は平章軍国事に任ぜられ、南宋の実質的な最高権力者となりました。同年、腹心である蘇師旦（そしだん）を知閣門事に任じ、自らの役割を代行させました。蘇師旦は、鄧友竜（とうゆうりゅう）と共に韓侂冑に開戦を進言した人物です。

1206年4月、金は南宋討伐の詔勅を発し、5月には南宋も対金戦争の詔勅を発しました。ここに、開禧用兵が開始されたのです。

戦況の悪化

韓侂冑は、靖康の変以来の反金感情と、儒学者の間での大義名分論から、北伐は内外の支持を得られると考えていました。しかし、世論は防衛力の強化を求める声が強く、北伐を支持する者は少数でした。そのため、最前線には少数の北伐支持の文官が配置されるという苦境に立たされます。

開戦当初は宋軍が優勢でしたが、金軍が反撃に転じると、各地で宋軍は敗北を喫しました。そして最大の痛手は、四川を守る呉曦（ごき）が金と通じて反乱を起こしたことでした。呉曦は、韓侂冑が最も戦力として期待していた人物だったのです。

講和と韓侂冑の死

戦況が悪化する中、開戦から半年後の1206年11月には、南宋と金の間で講和交渉が行われました。金は、開戦の責任者として韓侂冑の引き渡しを要求します。韓侂冑は蘇師旦らが主導したと主張しますが、金は韓侂冑の首級こそが講和の条件であると譲りませんでした。

1207年11月3日、韓侂冑は史弥遠（しびえん）らによって暗殺され、蘇師旦も殺害されました。韓侂冑らの首級が金に引き渡されたことで交渉が進展し、1208年に講和が成立しました。

影響

開禧用兵は、南宋の国力を疲弊させ、その後の対金関係にも大きな影響を与えました。また、韓侂冑の暗殺は、南宋の政局に大きな変化をもたらし、史弥遠が権力を掌握するきっかけとなりました。

参考文献
衣川強「〈開禧用兵〉をめぐって」『東洋史研究』第36巻第3号、1977年
衣川強「〈開禧用兵〉と韓侂冑政権」『宋代官僚社会史研究』汲古書院、2006年 ISBN 9784762925665

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