阪神国道電軌1形電車

阪神国道電軌1形電車は、1927年7月の国道線開業に合わせて製造された路面電車車両です。阪神国道電軌が1928年4月に阪神電気鉄道に合併されたため、そのまま阪神電気鉄道の併用軌道線1形となりました。

概要

1形は国道線開業時に合計30両が製造されました。製造所は3箇所に分かれており、1 - 10号車が藤永田造船所、11 - 20号車が田中車輛、21 - 30号車が大阪鉄工所です。それぞれ10両ずつ製造されました。

車体は全長12.6m、車体幅約2.4m、自重17.6t。側面窓の配置は1D 10 D1（Dは客用扉、数字は側窓の数）となっています。初期の鋼製車らしく、リベットが目立つ外観が特徴です。前面は標準的な3枚窓でしたが、角が面取りされており、凝ったデザインでした。この前面デザインは、翌年に登場した新設軌道線の831形にも受け継がれています。正面中央にはエアインテーク、右側には行先方向幕が取り付けられ、窓下にはトロリーレトリバーと尾灯が設置されていました。ヘッドライトは脱着式でした。車内はロングシートで、定員は82名でした。

路面電車スタイルの低床車体でしたが、扉部分の床にステップがないフラットな構造でした。そのため、扉の開閉と連動して動作するホールディングステップを備えており、後の併用軌道線車両共通の仕様となりました。塗色は茶色で、車体中央には金属製の大きな社章が取り付けられていました。前面の左右と側面ドアの両側には、楕円形のナンバープレートが取り付けられていました。

台車は、その後の阪神の併用軌道線で標準となった汽車製造製のボールドウィン64-20Rを装着。主電動機は三菱電機製のMB-162-LR（1時間定格出力29,8kW）を各台車に1基ずつ、計2基搭載していました（後に一部車両は4基に増強）。制御器は同じく三菱電機製の直接式制御器であるKR-8で、当時の日本の路面電車では標準的なものでした。ブレーキ装置は601形と同じSME非常直通ブレーキを装備し、これもその後の阪神の併用軌道線車両の標準装備となりました。集電装置はトロリーポールを装備していましたが、国道線は北大阪線と異なり単架線だったため、当初から前後に1基ずつ搭載していました。

戦前の1形

1形は国道線の開業と同時に運用を開始し、野田 - 東神戸間の長距離路線で活躍しました。しかし、路面電車としては長距離かつ高速での走行が求められたため、主電動機の出力不足とそれに起因する故障に悩まされました。そのため、増備車の31形では主電動機を4基に増強したほか、1933年以降にはモーターの電機子の巻線を二重から三重に強化して焼損事故の防止に努めました。1936年には着脱式だったヘッドライトを固定式に改め、屋根上に取り付けました。戦時中の金属回収により、ナンバープレートと社章、窓保護棒のうち1本が供出されました。

1944年には10両の主電動機を換装し4基搭載とすると同時に、制御器も換装する計画が立てられましたが、戦時下の物資不足のため実現しませんでした。

戦後の1形

併用軌道線の他の形式に比べて出力の劣る1形は、戦後は運用が国道線から甲子園線や単架線化された北大阪線へと移りました。この間、塗色は71形以降と同じベージュとマルーンのツートンカラーに変更され、社章は側面左側のドア横に、ナンバーは正面右下と側面右側のドア横に記入されました。1947年3月には、浜田車庫内で30号車が事故で焼失し、17号車も半焼しました。17号車は側面下半分がノーリベットとなり、正面のウインドヘッダーが平らになった状態で復旧しましたが、全焼した30号車は1953年に廃車されました。

1949年には神戸方のトロリーポールをYゲルに変更し、大阪方のポールは予備として残されましたが、その後撤去されました。保護棒も復旧されたほか、1950年ごろには尾灯が正面左窓上に移設されました。1958年秋には、22号車が新設軌道線の881形の一部車両と同様に、阪神パークで開催された科学博のPRのため、車体がイエロークリーム、屋根がグレーに塗装されました。1960年代後半には使われなくなった行先方向幕が埋められ、27号車は車体更新を受けて17号車と同様に側面下半分がノーリベットとなりました。

1954年12月15日に摂津車輌で発生した火災で26号車が全焼し、翌1955年に廃車となりました。続いて1957年には4両が廃車され、その後は併用軌道線の需要減に伴う減便に対して、余剰となった1形を廃車することで対応することとなりました。1962年には4両、1967年には3両、1970年と1971年には各2両、1972年には5両が廃車され、残った8両は1974年の国道線西灘 - 上甲子園間廃止時に全車廃車されました。廃車後、浜田車庫内の牽引車として残った車両もありました。

併用軌道線の全線廃止後、車体更新を受けた27号車が甲子園阪神パークに保存されました。パーク保存の際には車体表記を1号車に改めています。しかし、園内をリニューアルした1991年ごろに撤去されたため、現存しません。

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