阿部完市

阿部完市

阿部完市（あべ かんいち、1928年1月25日 - 2009年2月19日）は、昭和から平成にかけて活躍した日本の俳人、精神科医です。東京で生まれ、金沢医科大学付属医学専門部（現在の金沢大学医学部）を卒業後、医師として活動する傍ら、俳句の世界でも独自の足跡を残しました。

俳句との出会いと作風

1950年、勤務先の病院の俳句グループに参加したことがきっかけで、本格的に作句を始めました。その後、日野草城の「青玄」、西村白雲郷の「未完」、高柳重信の「俳句評論」といった俳句結社に所属し、1962年には金子兜太が主宰する「海程」に入会、同人となります。

阿部完市の俳句の特徴は、伝統的な有季定型や客観写生といった俳句の形式に捉われない、自由で前衛的な作風にあります。言葉の意味よりも、言葉そのものが持つリズムや響きを重視し、無意識の世界を表現しようとする試みがみられます。そのため、彼の句には意味が取りづらいと感じるものも少なくありません。

俳句への実験的なアプローチ

阿部完市は、医師としての知見を俳句に活かすという実験的な試みも行っています。30代の頃には、自らLSDを服用し、その体験を自己観察した上で俳句を作るという実験を行いました。この時の体験は、彼の無意識に対する探求を深めるきっかけとなり、その後の作風に大きな影響を与えたとされています。この時の句は、未刊句集『証』として全句集に収録されています。

受賞と活動

1965年には第2回海程賞、1970年には第17回現代俳句協会賞を受賞するなど、俳人としての評価も高く、1974年からは「海程」の編集長も務めました。また、現代俳句協会、国際俳句交流協会、日本ペンクラブの会員としても活動し、現代俳句協会では1997年から2008年まで副会長を務めるなど、俳句界の発展にも貢献しました。

代表句

阿部完市の代表的な句として、以下のようなものが挙げられます。

少年来る無心に充分に刺すために
ローソクもつてみんなはなれてゆきむほん
栃木にいろいろ雨のたましいもいたり
精神はぽつぺんは言うぞぽつぺん
きつねいてきつねこわれていたりけり

これらの句からも、従来の俳句の枠にとらわれない、独特の表現が読み取れます。

句集と評論

阿部完市は、生涯にわたり数多くの句集と評論を発表しました。主な句集には『無帽』『絵本の空』『純白諸事』『軽のやまめ』などがあり、評論には『俳句幻形』『俳句心景』などがあります。

死去

阿部完市は、2009年2月19日、81歳でその生涯を閉じました。彼の残した作品は、今もなお多くの俳人に影響を与え続けています。

参考文献

金子兜太編 編『現代の俳人101』新書館、2004年。
* 齋藤慎爾、坪内稔典、夏石番矢、復本一郎編 編『現代俳句ハンドブック』雄山閣、1995年。

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