阿部泰蔵

阿部泰蔵：日本の保険業界を牽引した先駆者

阿部泰蔵（あべ たいぞう）は、嘉永2年（1849年）に三河国吉田藩で生まれ、幕末から明治にかけて、武士、実業家、官僚として多岐にわたる分野で活躍しました。特に、日本初の生命保険会社である明治生命保険（現在の明治安田生命保険）の創立者として知られ、その初代頭取、初代会長を務めました。彼の業績は、日本の保険業界の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと教育

阿部泰蔵は、三河国吉田藩の藩医である豊田鉉剛の三男として誕生しました。その後、同藩の阿部三圭の養子となりました。幼少期から学問に励み、儒学を小野湖山に、蘭学を橋本一斎に学びました。藩命により江戸に上り、開成所教授の杉田玄瑞や穂積清軒、中島三郎助らに蘭学を師事しました。慶應義塾に入学し、福沢諭吉の薫陶を受けましたが、戊辰戦争のため帰藩し、各地を転戦しました。戦後、再び慶應義塾に戻り、教員としても活躍しました。

実業家としての活躍

1881年（明治14年）、阿部泰蔵は明治生命保険会社を設立しました。当時の日本には生命保険の概念が浸透しておらず、彼はその普及に尽力しました。また、東京商業会議所特別会員、東京倉庫（現・三菱倉庫）取締役、第三十三国立銀行跡引受人、火災保険会会務など、数々の要職を歴任しました。さらに、丸善商社取締役、東京統計協会特別会員、生命保険会社協会評議員会会長、日本郵船会社監査役など、幅広い分野でその才能を発揮しました。

官僚としての活動

1870年（明治3年）、太政官から大学出仕の命を受け、大学南校教授を経て文部省少教授、編集権助、六等出仕を歴任しました。訳書である『修身論』は文部省の教科書に採用されました。また、統計学を研究する「製表社」の結成にも参加し、麻布区会副議長も務めました。法典調査会査定委員、法典調査会委員、法律取調委員など、政府の要職も歴任し、日本の法律制度の整備にも貢献しました。

引退と晩年

1916年、阿部泰蔵は明治生命保険の会長職を退き、隠居生活に入りました。しかし、その後も取締役として会社を支え続けました。1919年には箱根の温泉で事故に遭い、大腿部を負傷。その後は病床に伏せる生活を送りましたが、1924年（大正13年）に76歳で亡くなりました。墓所は多磨霊園にあります。

阿部泰蔵の家族

阿部泰蔵は、後妻である優子（俣野景明の長女）との間に多くの子をもうけました。長男の圭一は三菱造船所重役、次男の泰二は帝国燃料理事、長女のこう子は安川電機初代社長の安川清三郎の妻、四男の章蔵は作家の水上滝太郎として知られています。また、三女のとみは小泉信三の妻、四女の八重は日比谷平吉の妻となりました。

栄誉と評価

阿部泰蔵は、その功績を称えられ、勲五等双光旭日章、勲四等旭日小綬章を授与されました。また、正六位、従五位にも叙せられました。彼の肖像画は、オハイオ州立大学内の保険殿堂に飾られており、日本における保険普及への貢献が高く評価されています。

阿部泰蔵は、日本の近代化に大きく貢献した人物として、その名前は歴史に刻まれています。彼の多岐にわたる活動は、現代の私たちにも多くの示唆を与えてくれます。

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