除煙板

除煙板（デフレクター）とは

除煙板（じょえんばん）は、蒸気機関車の前頭部、主にボイラー前端や煙突の左右に設置される屏風状の板のことです。これは、デフレクター（Smoke deflectors）や煙除け板とも呼ばれます。

除煙板の構造と役割

除煙板は、走行中に機関車前方の空気の流れを上向きに変え、煙突から排出される煤煙を運転席から遠ざけることで、運転士の視界を確保する役割を果たします。特に高速運転時やトンネル内での視界不良を防ぐ上で重要な役割を果たしました。

このタイプの除煙板は、1920年代のドイツで開発され、大型機関車に標準装備として普及しました。日本でも、同様の構造を持つ除煙板がC54形以降の大型機関車に標準的に採用され、既存の機関車にも追加装備されることがありました。

しかし、C12形のような小型機関車では、運転速度が比較的遅く、逆行運転も多いため、除煙板が省略されることもありました。また、東北地方では、煙突を小型の屏風状の板で挟んだような除煙板が追加で装備されることもありました。一方、操車場などで使用される機関車では、入換作業時の視界を確保するために、標準装備の除煙板が取り外されることもありました。

各国における除煙板

日本以外にも、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国などで除煙板が広く採用されました。しかし、アメリカでは、除煙板の効果に懐疑的な鉄道会社も多く、採用が見送られるケースもありました。

インダストリアルデザイナーのレイモンド・ローウィは、著書の中で除煙板の効果に疑問を呈しています。彼は、初期のドイツ05形蒸気機関車の除煙板を煙対策として不十分であると評価し、自身が設計したペンシルバニア鉄道の流線型蒸気機関車では、垂直な板ではなく、大型の水平な板を採用しました。

ヴィッテ式と門鉄デフ

前方視界を改善するため、ドイツではヴィッテ式と呼ばれる、下半分を切り取った形状の除煙板が開発されました。これは、除煙板の軽量化やメンテナンス性の向上にも貢献しました。

日本でも、門司鉄道管理局で同様の形状を持つ門司鉄道管理局式デフレクター（通称：門鉄デフ）が採用されました。これは、九州の日本国有鉄道小倉工場で製造され、多くの機関車に装着されました。また、信越地区の長野工場でも、同様の形状を持つ長工デフが製造されました。その他、鹿児島工場や後藤工場でも独自の変形デフが製造されました。

特に門鉄デフは、九州地区で活躍した多くの機関車に装備され、その形状も多岐にわたりました。「金のかもめに銀の波頭」や「波に千鳥」など、装飾が施されたものも存在しました。

門鉄デフは、機関車の廃車時に他の機関車に転用されることも多く、現在でもJR九州の58654号機やJR東日本のC57 180号機、D51 498号機に装着されています。また、秩父鉄道のC58 363号機や大井川鐵道のC11 190号機も、一時的に門鉄デフを装着して運行されました。

除煙板は、蒸気機関車の機能性とデザイン性を象徴するパーツの一つと言えるでしょう。

参考資料

* 関 崇博『門鉄デフ物語-切取式除煙板調査報告-』ネコ・パブリッシング、2009年。ISBN 978-4-7770-5257-8。

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