陰徳太平記

陰徳太平記

『陰徳太平記』、正式には『関西陰徳太平記』は、享保2年（1717年）に出版された日本の古典文学の一つであり、著者は香川景継（梅月堂宣阿）です。この作品は全81巻に加え、「陰徳記序および目録」が1冊あり、内容は主に戦国時代を背景に、室町時代の第12代将軍足利義稙から慶長の役までの約90年間を描写しています。特に、山陰地方や山陽地方を中心にした物語が展開されています。

現存する版本と成立背景

この書物の現存版は山口県文書館と毛利家に所蔵されています。前者は昭和初期に焼失した香川家旧蔵本の写本であり、後者は毛利家に献上されたものとされています。さらに、吉川家の旧蔵本も存在したものの、関東大震災で焼失しました。

『陰徳記』は岩国藩の家老香川正矩によって作られた軍記で、万治3年（1660年）に成立し、81巻から構成されています。この書は写本としてのみ伝わっており、他の版は『陰徳太平記』ほど広範には存在していないという指摘もあります。

地域の藩政初期には、正矩の作った『陰徳記』の流布はあまり奨励されておらず、藩自体も軍記を用いて「家格」を広める意図は持っていませんでした。作品は特定の人物（毛利元就など）が理想的に描かれることが多く、そのため一部の記述は都合の良いように改稿されたといわれています。

出版過程

『陰徳太平記』の成立には長い時間がかかりました。宝永3年（1706年）1月に香川宣阿が出版許可を求めましたが、当時の藩主吉川広逵が幼少のため、却下されました。しかし、宣阿の高齢を考慮し、2月24日に最初の許可が下り、その後の版木完成とほぼ同時に印刷も行われました。しかし、藩の吟味を待っていると延引の懸念があったため、最終的に9月10日に出版許可が出され、享保2年に出版となります。

家格の宣伝とその影響

この作品は単に文学としてだけでなく、吉川家の家格を広めるための重要な政治的手段ともなりました。『関ヶ原軍記大成』や『南海治乱記』との関係もあり、これらは正確には軍記として編纂されたもので、吉川家の主張を広めるために重用されました。岩国藩と萩藩との間で、吉川家の家格についての言辞の応酬が続き、藩主や大名に支持を求める動きが見られました。

評価と流布状況

『陰徳太平記』は、81巻にわたる大作にもかかわらず、長編ゆえにその魅力が減少したとの指摘もあります。特に、歴史の改竄や虚飾が多く見られるため、信頼性が疑問視されています。一方で、他の軍記物語と比較して、歴史的な変遷を考察する際には利用価値があるとも評価されています。

この作品は広範に流布し、特に京都、大阪、江戸の版元から印刷され、20以上の機関に残存在が確認されます。その影響力は、『陰徳太平記』が軍記として広まり、実際に多くの人々に認識されていたことを示しています。

時代が下ると、萩藩における家格の問題や、藩ごとの歴史の認識についても記録に残されており、吉川家が行った家格の宣伝が一部成功したことを伺わせます。

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