足利義稙

足利義稙（あしかが よしたね）

室町幕府第10代征夷大将軍。足利義政の弟である足利義視を父に、日野良子を母に持つ。初めは義材（よしき）と名乗り、後に義尹（よしただ）、そして義稙と改名した。

将軍在職は二度に分かれており、一度目は1490年から1495年まで。その後、約13年半の逃亡生活を送る。二度目は1508年から1522年まで。鎌倉、室町、江戸の三幕府の将軍の中で、将軍職を再任したのは義稙のみである。

生涯

1477年、応仁の乱終結後、父・義視に従い美濃国へ。1489年、従兄の9代将軍・足利義尚が死去したため、後継者として上洛し、10代将軍に就任。

就任後、管領・細川政元と対立し、1493年に将軍職を廃される（明応の政変）。幽閉されるも脱出し、越中国、越前国へ逃れる。その後、周防国の大内義興の支援を得て、1508年に京都を占領し将軍職に復帰。

しかし、大内義興が帰国すると管領・細川高国と対立し、1521年に京都を追われ将軍職を奪われる。1523年、逃亡先の阿波国で死去。

将軍家相続

1466年、足利義視の子として生まれる。1467年に応仁の乱が勃発すると、父・義視は将軍・足利義政と対立し西軍に身を投じる。義材は東軍の武田信賢に守られ、西軍に送り届けられた。

1473年に足利義尚が9代将軍となり、1477年に応仁の乱が終結すると、義視・義材親子は美濃国に下向。1487年、義尚の猶子として元服し、従五位下・左馬頭に叙位される。

1489年、義尚が死去すると、義視らに伴われて上洛しようとしたが、細川政元の反対で葬儀後に京に入る。義政・富子夫妻が義材を支持したため、将軍就任がほぼ決定。1490年、義政の死後、10代将軍に就任した。

明応の政変

当初、政治の実権を握った父・義視の死後、前管領・畠山政長と協調して権力確立を企図。しかし、擁立の功労者である富子や細川政元と対立する。

1493年、政元の反対を押し切り六角高頼征伐を再開、自ら近江国に出陣して高頼を追放。しかし、義材が京都を留守にしている間に、政元らは清晃を11代将軍に擁立し、義材を廃する蜂起（明応の政変）を起こす。

政元の蜂起の背景には、将軍就任時に政務を政元に任せると言っていた義材が、成長すると自ら政務を行おうとしたこと、すなわち将軍と管領のどちらが幕政の主導権を握るかの対立があった。

京都では義材派の人々が粛清され、騒然となる。後土御門天皇は義材の廃位に抗議したが、最終的に清晃の将軍就任を承認。

義材は政元の軍に敗れ、京都に連れ戻されて幽閉される。この時、富子の指示により毒を盛られる事件も起きた。

諸国への下向、上洛

幽閉された義材は、小豆島へ流されることを知り、脱出して越中国へ。越中公方と呼ばれ、越中国で政権を樹立した。1498年に義尹と改名し、越前国へ。

その後、畠山政長の子・尚順と同調して軍事攻撃による上洛をめざすも失敗。大内義興を頼り周防国へ。

1507年に細川政元が暗殺され、細川家が分裂状態に陥ると、義尹は将軍復帰の好機と見て、大内家の軍事力を背景に1508年に上洛。

京都を占領し、11代将軍・義澄を追放。7月に将軍職に復帰した。

将軍職への復帰

義尹と義澄派は将軍職を巡り抗争。1509年、義澄に刺客を送られるも撃退。1511年、義澄が病死し、船岡山合戦にも勝利したため、義尹の将軍職復帰が確定。

しかし、義尹の政権は管領となった細川高国や大内義興らの軍事力に支えられ、親裁志向の強い義尹は意のままにならないことが多かった。

1513年には細川・大内・畠山の諸氏と対立し、京都を出奔して近江国へ逃れる。重病に罹るも回復し、京都に戻った。同年、義稙に改名。

1517年には細川高国の判断によって伊達高宗に偏諱が与えられ、1518年に大内義興が帰国すると、残された義稙と高国は対立を深めた。

堺、淡路への下向

大内義興の帰国により、義稙への軍事的支えが無くなると、細川澄元が挙兵。1520年に高国が敗れると、義稙は澄元と内通し、高国に代わって澄元の家臣が入京。

その後、高国が勢力を回復し、澄元を破って入京。義稙と高国の仲は険悪となり、1521年に義稙は和泉国堺に出奔。高国は義稙に代わる新将軍として足利義晴を擁立した。

義稙は淡路国に逃れ、再挙を図るも失敗。1523年に阿波国で死去。

死後

義稙には息子がいなかったが、前将軍で対抗者でもあった義澄の子・義維を養子とした。義稙の死後、義維は将軍職を継いだ兄弟の義晴と対立し、足利家は義稙流と義澄流に分かれ、新たな戦乱の火種となった。

人物・逸話

流浪時代を回顧した逸話が残されており、「政治に携わる者は常に慈悲の心をもって臨まねばならない」という心境に至ったと述べている。

将軍職を追われ諸国を流浪したことから、「流れ公方」「島の公方」などと呼ばれた。

官位叙任履歴

1487年：従五位下、左馬頭
1490年：征夷大将軍、従四位下、右近衛中将、参議
1495年：将軍職を退く
1501年：参議を辞す
1508年：従三位、権大納言、征夷大将軍
1509年：従二位
1519年：源氏長者、淳和奨学両院別当
1522年：将軍職を退く
1523年：薨去
1535年：贈従一位、太政大臣

偏諱を与えた人物

義材、義尹、義稙の各時代に多くの武将、公家に偏諱を与えている。

墓所・肖像

墓所は徳島県阿南市の西光寺。没地の鳴門市には将軍塚がある。

肖像画は、義稙没後に大内義隆が描かせたとされるが、確実な現存作品は知られていない。東京国立博物館には模本が伝わっている。

木像は、等持院像や鑁阿寺像などが現存している。

関連作品

小説、テレビドラマなどで、義稙を題材とした作品が制作されている。

まとめ

足利義稙は、室町幕府の衰退期において、激動の時代を生きた将軍である。二度にわたる将軍就任と、その間の逃亡生活は、彼の波乱に満ちた人生を物語る。彼の生涯は、室町幕府の衰退と戦国時代の幕開けを象徴する出来事と言えるだろう。

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