陳伯之

陳伯之（ちん はくし）

陳伯之（生没年不詳）は、中国南北朝時代の軍人であり、済陰郡睢陵県を本貫とする人物です。

生涯

若い頃から並外れた腕力を持ち、13、14歳の頃にはカワウソの皮で作った冠を被り、刺刀を帯びて近隣の稲を盗むなど、大胆な行動で知られていました。ある時、稲の所有者に見つかりましたが、堂々とした態度で自分の行為を正当化し、逆に相手を威圧して逃走しました。成長してからは、鍾離で強盗を繰り返していましたが、軍の偵察船に遭遇し、船員に左耳を切り落とされました。

その後、同郷の車騎将軍である王広之に仕え、その武勇を愛され、常に身近に置かれるようになりました。王広之に従って各地を転戦し、武功を重ねました。

隆昌元年（494年）、斉の安陸王蕭子敬が南兗州刺史となると、自衛のために兵力を増強しました。宣城公蕭鸞は王広之を派遣して蕭子敬を討伐させ、陳伯之はその先発隊として派遣されました。陳伯之は城門を開かせ、単身で乗り込んで蕭子敬を斬るという大胆な行動で勝利に貢献しました。その功績により、冠軍将軍・驃騎司馬に任じられ、魚復県伯に封じられました。

永元2年（500年）には、水軍を率いて淮水を遡り、寿春に迫りました。同年8月には豫州刺史に任じられましたが、北魏の彭城王元勰に敗れました。同年12月、蕭衍が東昏侯打倒のために襄陽で挙兵すると、陳伯之は東昏侯政権により冠軍将軍・豫州刺史のまま仮節・都督前鋒諸軍事に任じられました。その後、平西将軍に転じ、尋陽に拠って蕭衍の東征軍を阻みました。しかし、東征軍により郢城が平定されると、陳伯之の部下であった蘇隆之が蕭衍に捕らえられ、陳伯之に帰順を勧めました。陳伯之は蕭衍の和帝政権により安東将軍・江州刺史に任じられましたが、東西の政権に両属して情勢を観望する態度を取りました。蕭衍は陳伯之の態度を警戒し、東征軍を尋陽に進駐させました。陳伯之は一旦南湖に退きましたが、最終的に蕭衍に帰順し、鎮南将軍の号を与えられ、東征軍と共に東下しました。

建康が陥落する際には、蕭衍から再び裏切るのではないかと疑われましたが、巧みな策略によって疑念を払拭し、建康平定に貢献しました。その功績により、征南将軍の号に進められ、豊城県公に封じられて江州に帰りました。

江州の統治においては、自身が文字を読めなかったため、全て口頭で伝えられることに頼っていました。旧友の鄧繕を別駕、戴永忠を記室参軍として任用しましたが、同郷の朱龍符が長流参軍となり、陳伯之の文書行政に疎い点を利用して江州の刑政を専断しました。

天監元年（502年）、蕭衍が武帝として梁を建国すると、武帝は陳伯之の子である陳虎牙を派遣して朱龍符の罪を告発し、罷免させようとしました。さらに、江州別駕の鄧繕を召喚しようとしましたが、陳伯之はいずれの命令も拒否しました。鄧繕が建康の食糧不足を指摘して離反を勧めると、褚緭や戴永忠らもこれに賛同しました。陳伯之は斉の建安王蕭宝寅につくことを表明し、褚緭が蕭宝寅の書を偽造して同僚たちに示しました。5月、陳伯之は江州で挙兵して反乱を起こしましたが、武帝が派遣した王茂や豫章郡太守の鄭伯倫に阻まれ、江州を捨てて江北に逃亡しました。8月には、子の陳虎牙と褚緭を洛陽に派遣して北魏への帰順を表明し、陳虎牙は人質として洛陽に留められました。

北魏では、景明4年（503年）に持節・都督江郢二州諸軍事・平南将軍・江州刺史に任じられ、曲江県開国公に封じられました。陳虎牙も冠軍将軍・員外散騎常侍の位を受け、豫寧県開国伯に封じられました。正始元年（504年）には、梁の征虜将軍である趙祖悦を撃破するなどの戦功を挙げました。

正始2年（505年）2月、梁の徐州刺史である昌義之を梁城で撃破し、光禄大夫の位を受けました。しかし、梁の臨川王蕭宏から帰順を勧められ、3月に8000人を率いて寿陽で梁に帰順しました。このため、陳虎牙は北魏によって殺害されました。

梁に帰順した陳伯之は、使持節・都督西豫州諸軍事・平北将軍・西豫州刺史となり、永新県侯に封じられましたが、赴任することなく通直散騎常侍・驍騎将軍とされ、後に太中大夫となりました。その後、家で亡くなりました。陳伯之の子の中には、北魏に留まった者もいたと伝えられています。

評価

陳伯之は、その武勇と大胆さで数々の戦功を挙げましたが、情勢を観望する曖昧な態度が災いし、最終的には息子を失うという悲劇的な結末を迎えました。彼の生涯は、激動の時代における個人の生き方を考えさせられるものとなっています。

伝記資料

『梁書』巻20 列伝第14
『南史』巻61 列伝第51
* 『魏書』巻61 列伝第49

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