陳余

陳余（ちん よ）とは

陳余は、秦末から前漢初期にかけての武将であり、代王としても知られています。彼は激動の時代を生き抜き、その生涯は友情、裏切り、そして壮絶な最期まで、ドラマチックな展開に満ちています。

刎頸（ふんけい）の交わり

陳余は父と共に魏に仕え、儒教に通じていました。趙に遊学中、現地の富豪と親交を深め、その娘と結婚して財を得ました。この頃から、同じく趙にいた張耳と深く交流し、互いに首を斬られても良いという強い信頼関係、すなわち刎頸の交わりを結びました。これは、かつての藺相如と廉頗の故事に倣ったもので、二人の強い絆を示すエピソードとして有名です。

秦の圧政と反乱

秦王政（後の始皇帝）による魏の滅亡後、張耳と陳余は魏の名臣として賞金がかけられる身となりました。二人は偽名を使って逃亡し、陳の地で門番の仕事にありつきます。ある時、陳の役人に濡れ衣を着せられて鞭打たれた際、陳余は反撃しようとしましたが、張耳は陳余の足を踏みつけて制止しました。張耳は「大きな志のためには、今は耐え忍ぶべきだ」と諭しました。

やがて、始皇帝が死去し、陳勝・呉広の乱が勃発。陳勝が陳を占拠すると、張耳と陳余は彼の元に馳せ参じ、陳勝に仕えることになります。しかし、陳勝は周囲の進言で勝手に王を名乗ったため、陳余は秦の支配下にある趙を攻めることを進言し、武臣に兵を与えて趙攻略に向かわせました。陳余は趙の豪族を味方に引き入れ、10以上の城を占領することに成功しました。

趙の独立と仲間割れ

范陽に転戦した陳余は、蒯通の助言で郡守を降伏させ、邯鄲を占領しました。陳勝が疑心暗鬼になり、家臣を次々と殺害しているという噂を聞き、張耳と共に武臣を趙王として擁立し、陳余は上将軍、張耳は丞相となりました。しかし、趙王となった武臣は秦の城を攻めようとして、指揮官の一人である李良の裏切りにあい、殺害されてしまいます。張耳と陳余は辛くも逃亡し、趙王の子孫である趙歇を擁立し、信都を都と定めました。その後、陳余と張耳は協力して裏切った李良を打ち破りますが、秦の将軍である章邯の侵攻を受け、信都を放棄して鉅鹿に籠城します。

刎頸の友との決裂

鉅鹿では食料が尽き、陳余は援軍を率いてきたものの、章邯軍の勢いを恐れて動けずにいました。張耳は何度も救援を求めますが、陳余は拒否。張耳の家臣である張黶と、陳余の親族である陳澤が援軍を懇願しますが、陳余は「無駄死にだ」として、僅かな兵しか与えませんでした。結果として張黶と陳澤は戦死、この一件で、二人の関係は決定的に悪化しました。その後、項羽の軍勢が到着し、章邯軍を破り、張耳と趙歇は救出されます。しかし、陳余は張耳に疑念を抱き、印綬を放棄して漁師となりました。

敵対関係へ

秦滅亡後、項羽は諸侯を対象に論功行賞を行いましたが、陳余は張耳より低い南皮侯に封じられ、強い恨みを抱きました。陳余は、項羽の処遇に不満を持つ斉王の田栄と結び、張耳を攻撃して逃亡させ、趙王趙歇を擁立し、自らは宰相と代王を兼任しました。楚漢戦争が始まると、陳余は漢軍に加わる条件として、張耳の首を要求。劉邦は偽の首を送り、陳余を騙しますが、後にこの嘘が発覚し、二人は完全に敵対することになりました。

井陘（せいけい）の戦い

韓信と張耳率いる漢軍は、趙に侵攻します。広武君李左車は背後を突くよう進言しますが、陳余は正攻法での勝利にこだわり、これを退けました。韓信は、川を背にして砦を築き、退路を断って戦う「背水の陣」で趙軍と対峙しました。劣勢に見えた漢軍でしたが、死に物狂いの抵抗で趙軍を押し返し、伏兵による奇襲を成功させます。混乱した趙軍は壊滅的な敗北を喫し、陳余は捕らえられ、泜水で処刑されました。張耳は趙王として返り咲き、陳余の生涯は、壮絶な最期を迎えました。

陳余を題材とした作品

楚漢名臣列伝（小説、宮城谷昌光、文藝春秋）

外部リンク

列伝チ - ウェイバックマシン（2002年10月4日アーカイブ分）

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