刎頸の交わり

刎頸の交わり：首を賭しても揺るがぬ友情

「刎頸の交わり（ふんけいのまじわり）」とは、中国の戦国時代に、趙の国の藺相如（りんしょうじょ）と廉頗（れんぱ）という二人の武将の間で生まれた故事に由来する、非常に固い友情を表す言葉です。文字通りには「首を刎ねられても後悔しないほどの仲」という意味で、生死を共にする覚悟を持つほどの深い信頼関係を指します。

刎頸の交わりの誕生

この言葉が生まれた背景には、以下のような出来事がありました。

1. 藺相如の台頭: 藺相如は、秦との外交でその才能を発揮し、国宝である「和氏の璧」を無事に守り抜きました。その功績により、彼は一介の宦官の食客から大臣級の上卿にまで昇進しました。
2. 廉頗の不満: しかし、歴戦の勇将である廉頗は、外交手腕だけで出世した藺相如を快く思わず、強い不満を抱きます。藺相如は、廉頗との衝突を避けるため、病気を理由に外に出るのを避けるようになります。
3. 藺相如の決意: ある日、藺相如が外出中に廉頗に遭遇しそうになった際、彼はあえて別の道を選び、廉頗を避けました。この行動に不満を抱いた家臣たちが辞職を申し出ると、藺相如は、「今、私と廉頗が争えば、秦につけ入る隙を与えることになる。今は国のために廉頗の行動に目をつぶるべきだ」と諭しました。
4. 廉頗の謝罪: この話を聞いた廉頗は、自らの非を悟り、上半身裸でいばらの鞭を持ち、藺相如に謝罪します。「私の無礼を許してほしい。どうか、この鞭で私を打ってくれ」と。
5. 友情の芽生え: 藺相如は廉頗を許し、服を着せました。廉頗は深く感動し、「あなたのためなら、首を刎ねられても悔いはない」と語り、藺相如も「私もあなたのためなら喜んで首を差し出す」と応えました。こうして二人は、互いのために命を賭しても惜しくないという深い絆を誓い合ったのです。

この出来事から、「刎頸の交わり」という言葉が生まれ、二人の友情は、秦が趙に手出しできないほどの力となったとされています。

その後の刎頸の交わり

刎頸の交わりの逸話は、後世にも影響を与えました。

張耳と陳余: 秦代末期には、張耳（ちょうじ）と陳余（ちんよ）という人物が、藺相如と廉頗にならって刎頸の交わりを結びました。しかし、二人は反乱軍に参加した後、秦軍との戦いで仲違いし、最後には互いの一族を殺し合うという悲劇的な結末を迎えました。この事例は、刎頸の交わりを結んだとしても、その後の行動や状況によっては友情が崩れる可能性を示唆しています。
劉備と牽招: また、三国時代の蜀漢の劉備（りゅうび）と魏の牽招（けんしょう）も、若い頃に刎頸の交わりを結んだ仲だったという記述が残っています。この二人の関係は、後の時代の「刎頸の交わり」の例として語り継がれています。

近現代における「刎頸の友」

日本では、1970年代に起きたロッキード事件において、田中角栄元首相と実業家の小佐野賢治の関係が「刎頸の友」として取り上げられました。田中元首相自身も、親友について「刎頸の友である」と発言しており、この言葉が広く知られるきっかけとなりました。

「刎頸の友」の普遍的な意味

「刎頸の交わり」は、時代や場所を超えて、人々の心を揺さぶる強い友情の象徴として語り継がれています。それは、お互いを深く理解し、信頼し、時には命を賭しても惜しくないと思えるような、特別な関係性を表す言葉として、今も私たちの心に響いています。

沖縄方言で親友を意味する「くびちりどぅし」は、この「刎頚の友」を意訳したものです。

この言葉は、単に仲が良いというだけでなく、互いのために自己犠牲も厭わない、真の友情のあり方を教えてくれます。

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