陸志韋

陸志韋（りく しい）の生涯と業績

陸志韋（1894年2月6日 - 1970年11月21日）は、中国の心理学者、言語学者、そして詩人でした。彼は特に中国語の音韻史と文法研究において重要な貢献をしたことで知られています。

生い立ちと初期の教育

陸志韋は1894年に浙江省呉興（現在の湖州市）で生まれました。1913年に蘇州の東呉大学を卒業後、1915年にアメリカ合衆国に留学し、シカゴ大学で心理学を学びました。1920年には博士号を取得し、彼の博士論文は「The Conditions of Retention」（記憶保持の条件）というテーマでした。

研究者としてのキャリア

帰国後、陸志韋は南京高等師範学校（後の国立東南大学、現在の南京大学）で心理学を教え始めました。1927年からは燕京大学の心理学主任教授となり、同年設立された中国心理学会の会長にも就任しました。1933年には再びシカゴ大学に留学し、生理心理学を研究しました。1934年には燕京大学の代理校長に就任しています。

戦時中の苦難

日中戦争中、燕京大学はアメリカ系の学校であったため、当初は日本の侵攻を免れました。しかし、太平洋戦争が始まると、日本軍によって燕京大学は閉鎖され、陸志韋も他の教授たちと共に収監されました。1942年5月、病気と診断されたことで釈放されました。

戦後の活動と文化大革命

1945年8月15日、日本の無条件降伏によって解放された後、陸志韋は再び燕京大学の代理校長として大学の復興に尽力しました。国共内戦を経て中華人民共和国が成立した後も燕京大学にいましたが、朝鮮戦争中の1952年、燕京大学はアメリカ帝国主義の拠点とみなされ、陸志韋もその手先として批判されました。同年、燕京大学は北京大学などに吸収され、陸志韋は中国社会科学院語言研究所に移りました。

1966年に始まった文化大革命では、過去の罪状に加え「反動学術権威」として再び批判され、1969年には五七幹部学校に送られてブタの世話をさせられました。高齢であった陸志韋はその重労働に耐えられず倒れ、自宅に運ばれました。1970年に病死しましたが、1979年にようやく名誉が回復されました。

研究内容と業績

陸志韋は当初心理学を専門としていましたが、1930年代末からは中国語の音韻や文法などの研究に力を注ぎ、中国語学者として広く知られるようになりました。

音韻関係の研究

音韻史の研究において、陸志韋は中古音を推定する際に従来用いられてきた反切系聯法を批判しました。彼は反切の分析に統計的な手法を用いることで、カールグレンとは異なる51の声類を導き出しました。

『古音説略』（1943年序、1947年出版）では、主に上古音に関する研究がまとめられています。この中で、彼は形声文字の声符を統計的な手法で分析しました。

彼の音韻学関係の論文の多くは、没後に出版された『陸志韋語言学著作集』（中華書局、1985年）に収録されています。

言語学研究

『北京話単音詞詞彙』（北京人民出版社、1951年）は、北京語の単音節語を例文とともにラテン化新文字の順に配列したものです。この著書では、従来の文字を単位とした配列ではなく、語を単位としている点、漢字の存在しない擬声語を含めている点、1から7の数字で品詞分類を示している点など、多くの新しい工夫がなされています。

この『北京話単音詞詞彙』は、日本で『岩波中国語辞典』が編纂される際の基礎となりました。

『漢語的構詞法』（科学出版社、1957年）は、複合語（熟語）の作られ方を研究した著作です。

まとめ

陸志韋は、その生涯を通じて、心理学、言語学の両分野で重要な業績を残しました。特に中国語の音韻史研究における統計的手法の導入や、現代中国語の語彙研究における新たな視点の提示は、後世の研究者たちに大きな影響を与えました。彼の業績は、激動の時代を生き抜いた学者の不屈の精神と、学問への情熱を示すものとして、今もなお高く評価されています。

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