陸軍幼年学校 (日本)

陸軍幼年学校について

陸軍幼年学校（りくぐんようねんがっこう）は、大日本帝国陸軍において、将来の陸軍将校を育成するために設立された全寮制の教育機関です。満13歳以上15歳未満の男子を対象とし、厳しい選抜を経て入学が許可されました。プロイセンの陸軍幼年学校をモデルに設立され、通称は「陸幼」「幼年校」などと呼ばれていました。

概要

陸軍幼年学校は、陸軍士官学校の予科に進むための準備教育機関としての役割を担っていました。1920年以降、陸軍士官学校が予科・本科制度になると、陸軍幼年学校は、受験時に満13歳以上15歳未満の生徒を受け入れ、旧制中学校相当の教育を行う全寮制の学校となりました。生徒は、将来の陸軍士官学校予科（のちに陸軍予科士官学校）に進むための基礎を学びました。1940年の勅令では、「陸軍予科士官学校生徒たるに必要な素養を与えるため、軍事上の必要を考慮して普通学科を教授し、軍人精神を涵養する所」と定義されています。

陸軍士官学校予科に進む生徒は、陸軍幼年学校出身者（陸幼組）と、一般の中学校出身者（中学組）で構成されていました。陸軍士官学校の卒業生は約5万1千名で、うち陸幼組は約1万9千名と、全体のおよそ4割を占めていました。

陸軍幼年学校から陸軍士官学校に進む流れは、将校への道における最初のステップであり、陸幼卒業者は、陸軍士官学校予科で普通学を学び、卒業後に各兵科の士官候補生となりました。その後、部隊勤務を経て陸軍士官学校本科に進み、専門的な軍事学を学び、少尉に任官しました。陸軍幼年学校は、エリート将校を育成するための重要な機関であったと言えるでしょう。

選抜

陸軍幼年学校は、当時の少年たちの憧れの的であり、入学は非常に困難でした。選抜試験の倍率は20倍程度にもなり、中学校のトップクラスの生徒でも合格は容易ではありませんでした。試験は身体検査と学科試験（国語、作文、地理、歴史、数学、理科）で構成され、学歴は不問でしたが、実際には中学校出身者が大半でした。特に、理数系の素養が重視され、数学で満点を取ると優先的に合格する傾向がありました。また、戦没軍人や公務殉職者の遺児は、一定の成績があれば合格とされました。入学者はさらに精密な身体検査を受け、これに合格した者が正式な生徒となりました。

月謝

陸軍幼年学校は、授業料と寮費が必要な有償の学校でした。1938年の例では、月謝は20円で、小遣いを含めると毎月25円が必要でした。ただし、戦没者や公務殉職者の遺児、現役軍人の子息などは、特待生として月謝が全額または半額免除される制度がありました。中学校の月謝と比較すると高額でしたが、将校への道が開かれることを考えれば、多くの家庭が費用を捻出したと考えられます。

教育

陸軍幼年学校での教育は、旧制中学校の2年生から5年生課程に相当する普通学が中心でした。さらに、軍事学や精神訓話も学びました。一般の中学校と異なる点として、語学（ドイツ語、フランス語、ロシア語、英語から選択）、音楽、図画が重視されていました。1921年からは、陸軍幼年学校卒業者に高等学校の受験資格が付与されるようになりました。

訓育班

生徒は50名定員の訓育班に所属し、さらに25名定員の学班に分かれていました。寝室は10名定員で、上級生である「模範生徒」が1名付き、下級生の指導にあたっていました。各訓育班には自習室が設けられ、生徒一人一人に机が与えられました。

入学定員は、当初50名でしたが、満州事変以降は増員され、1940年入校の第44期生では150名となりました。休日は外出が許可され、夏休みや冬休みもありました。また、夏には遊泳演習、秋には運動会や修学旅行などの行事も行われました。

職員

陸軍幼年学校には、校長、副官、教官、訓育部長、生徒監主事、生徒監などの職員がいました。特に、訓育班の指導の中心となる生徒監は、生徒にとって重要な存在でした。第二次世界大戦後半になると、生徒監は戦地へ転出することが多くなり、尉官の訓育班長が補佐するようになりました。

模範生徒・取締生徒

陸軍幼年学校には、上級生が下級生を指導する制度がありました。特に、模範生徒は、品行方正かつ学術優秀な3年生が任命され、下級生の指導にあたりました。また、同学年の生徒間でも、輪番制で取締生徒が任命され、班の引率などを行いました。

制服

陸軍幼年学校の制服は、一般の兵士とは異なる、上質な生地と仕立てのものが支給されました。特徴的なものとして、貼付式のポケット、ショルダーループ型の肩章、桜花の刻印されたボタン、折り返しの袖、緋色のパイピングがありました。特に、襟には見習士官や士官候補生に準じる金色の金属星章が付けられ、これは「星の生徒」の象徴とされていました。また、士官候補生と同様に、旭日章と桜花のバックルが付いた帯革を着用し、白手袋も使用しました。

歴史

陸軍幼年学校の起源は、1870年に横浜語学研究所が大阪兵学寮に編入されたことに始まります。その後、1872年に独立した幼年学校が設立されました。1875年に陸軍士官学校から独立しましたが、1877年に陸軍士官学校に組み込まれ一時消滅しました。1887年に再度設立され、1896年には中央幼年学校と地方幼年学校に分けられました。1903年には、中央幼年学校と東京地方幼年学校が合併され、本科と予科に改編されました。1920年に、陸軍幼年学校令が制定され、陸軍士官学校予科や各地の陸軍幼年学校へと改称されました。その後、ワシントン軍縮条約の影響により、1922年から1926年にかけて地方校は一度廃止されましたが、1936年以降、再び復活しました。

1945年、太平洋戦争の敗戦とともに陸軍幼年学校は廃止されました。

陸幼組と中学組

帝国陸軍内では、陸軍幼年学校出身者が優遇され、要職を独占したという見解があります。陸幼組は、エリート層出身者が多く、陸軍士官学校の卒業成績でも上位を占める傾向がありました。また、陸軍大学校の卒業者や、中央の要職に就く人も陸幼組が多かったとされています。陸幼組は、語学の面でも優位に立っており、それが陸軍大学校の合格率や卒業席次に影響したとする指摘もあります。

各校

東京陸軍幼年学校（東幼）
大阪陸軍幼年学校（大幼）
仙台陸軍幼年学校（仙幼）
名古屋陸軍幼年学校（名幼）
広島陸軍幼年学校（広幼）
熊本陸軍幼年学校（熊幼）

用語

陸幼では、独特の「武窓用語」や「隠語」が使われていました。例えば、「KD」「カデ」「カデット」「C」は陸幼生徒を指す言葉です。また、陸幼出身者に対する蔑称として「Dコロ」、中学出身者に対する蔑称として「Pコロ」といった言葉がありました。

歴代校長

(校長リストは省略)

関係者

(著名な卒業生リストは省略)

参考文献

(参考文献リストは省略)

外部リンク

(外部リンクは省略)

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