陸軍航空通信学校

陸軍航空通信学校は、日本陸軍が航空通信に関する教育と研究を行うために設立した軍学校です。1940年（昭和15年）に水戸陸軍飛行学校内で開校し、同年10月に近隣の新施設へ移転しました。学校本部および本校は茨城県東茨城郡（現在の水戸市住吉町）に置かれ、兵庫県加古郡の加古川教育隊など、各地に教育隊が設けられました。

沿革

陸軍航空通信学校の設立

当初、陸軍の航空通信教育は下志津陸軍飛行学校が担当していましたが、1938年（昭和13年）7月以降は、軍備増強計画である「一号計画」に基づき新設された水戸陸軍飛行学校がその役割を担いました。その後、日中戦争の拡大により「二号計画」に修正され、航空戦力を地上から支援する通信、整備の充実が図られることとなり、専門的な教育・研究機関として陸軍航空通信学校が設立されることになりました。

1940年（昭和15年）8月、陸軍航空通信学校令が施行され、陸軍航空通信学校が正式に発足しました。学校令では、学生に航空通信に関する学術を修得させること、通信に従事する少年飛行兵や幹部候補生などを教育すること、そして航空通信に関する調査・研究・試験を行うことが定められました。教育対象の中心は少年飛行兵とその候補生であり、これらの人材育成に力が注がれました。

学校の編制

学校は陸軍航空総監の隷下に置かれ、校長を筆頭に、幹事、本部、教育部、研究部、教育隊、教導隊、材料廠、そして学生で構成されていました。教育隊には、少年飛行兵、生徒、幹部候補生、下士官候補生が所属していました。教導隊は、学生の教育や通信研究に必要な人員を、他の部隊から一時的に派遣して編成されました。

教育課程

陸軍航空通信学校では、以下のような様々な教育課程が設けられていました。

甲種学生: 航空通信部隊に必要な戦術、教練、陣中勤務を学ぶ課程。航空兵科の少佐または大尉が対象で、修学期間は約6か月。
乙種学生: 通信に必要な学術を学ぶ課程。陸軍航空士官学校の生徒課程卒業者が対象で、修学期間は約1年。成績優秀者は高等科に進み、さらに1年学術を修得。
丙種学生: 航空通信部隊に必要な学術を学ぶ課程。陸軍航空士官学校の学生課程卒業者が対象で、修学期間は約8か月。
丁種学生: 航空通信部隊の下士官に必要な学術を学ぶ課程。航空兵科の下士官が対象で、修学期間は約6か月。
特種学生: 暗号書の作成や取り扱い、暗号勤務を学ぶ課程。航空兵科の尉官が対象で、修学期間は約4か月。選抜者は長期学生としてさらに研究を深めることができた。
生徒: 通信に従事する少年飛行兵となるための学術を学ぶ課程。東京陸軍航空学校卒業者が対象で、修学期間は約1年。
幹部候補生: 航空兵科の予備役将校に必要な通信に関する学術を学ぶ課程。各部隊から派遣された航空兵科の甲種幹部候補生が対象で、修学期間は約1年。
下士官候補者: 通信に従事する航空兵科の下士官になるための学術を学ぶ課程。各隊から派遣された航空兵科の下士官候補者が対象で、修学期間は約1年。

その他、必要に応じて各兵科（憲兵科を除く）の将校以下を召集し、教育を行うこともありました。

移転と教育隊の増設

学校は当初、茨城県那珂郡前渡村（現在のひたちなか市新光町）の水戸陸軍飛行学校内に設置されましたが、同年10月には、近隣の東茨城郡吉田村（現在の水戸市中部）に移転しました。

1943年（昭和18年）9月には、吉田教育隊が本校と同じ吉田村に、加古川教育隊と尾上教育隊が兵庫県加古郡に編成されました。さらに1944年（昭和19年）4月には、特別幹部候補生の採用に合わせて長岡教育隊（茨城県）、神野教育隊（兵庫県）、菊池教育隊（熊本県）、新田原教育隊（宮崎県）が新たに編成されました。また、この頃には電波兵器に関する教育も一部で行われるようになりました。

水戸教導航空通信師団への改編

太平洋戦争の戦況が悪化するにつれて、陸軍の航空関係諸学校は教育・研究だけでなく、戦力としての役割も求められるようになり、1944年（昭和19年）6月から教導飛行師団などに軍隊化されました。

1945年（昭和20年）4月末、陸軍航空通信学校は水戸教導航空通信師団に改編され、加古川教育隊などの教育隊は加古川教導航空通信団に改編されました。水戸教導航空通信師団は、主に将校や下士官の教育を担当し、加古川教導航空通信団は少年飛行兵などの教育を担当しました。また、陸軍航空通信学校の電波兵器関係の人員と資材は、陸軍電波兵器練習部第1教育隊として長岡教育隊の跡地に編成されました。

水戸教導航空通信師団は、師団長を筆頭に、司令部、2個教導航空通信隊、1個教導飛行隊、1個教導整備隊で構成され、将校570名、下士官550名の学生定員が定められました。加古川教導航空通信団は、団長を筆頭に、司令部、1個教導整備隊、4個教育隊で構成され、定員7050名の教育が計画されました。各教育隊では、特別幹部候補生、少年飛行兵、少年飛行兵となる生徒に対する教育が行われました。

部隊改編後、空襲の激化に伴い、部隊は吉田村の校舎を放棄し、周辺の山林内に急ごしらえで設けた半地下壕舎に分散して展開しました。

終戦とその後

1945年（昭和20年）8月、太平洋戦争は終結しました。終戦時、水戸教導航空通信師団では、恭順派と徹底抗戦派の間で激論が交わされ、終戦を受け入れない一部将校は上京し、東京美術学校を占拠するという事件も発生しました。しかし、最終的には説得に応じて部隊は解散し、首謀者たちは自決しました。

同年8月中に師団は逐次復員し、陸軍航空通信学校およびその後身である水戸教導航空通信師団は、その歴史に幕を閉じました。

年譜

1940年8月 - 水戸陸軍飛行学校内に陸軍航空通信学校を設置。
1940年10月 - 陸軍航空通信学校を東茨城郡に移転。
1943年9月 - 陸軍航空通信学校加古川教育隊ほか教育隊を設置。
1944年4月 - 陸軍航空通信学校長岡教育隊ほか教育隊を設置。
1945年4月 - 陸軍航空通信学校を水戸教導航空通信師団、加古川教育隊等を加古川教導航空通信団へ改編。
1945年8月 - 終戦により廃止。

歴代校長等

陸軍航空通信学校

藤田朋中将：1940年8月1日 - 1941年10月15日
藤沢繁三少将：1941年10月15日 - 1943年8月3日
安達三朗大佐：1943年8月3日 - 1944年5月10日（1944年3月1日、少将に進級）
板花義一中将：1944年5月10日 - 1944年8月8日
田中友道少将：1944年8月8日 - 1945年5月3日（1945年4月30日、中将に進級）

水戸教導航空通信師団

田中友道中将：1945年5月3日 -

加古川教導航空通信団

渡辺粂一少将：1945年5月3日 -

第1教育隊（加古川）

内藤二三男中佐：1945年5月3日 -

第2教育隊（尾上）

大野南海雄中佐：1945年5月3日 -

第3教育隊（神野）

松下孝少佐：1945年5月3日 -

第4教育隊（菊池）

吉村清中佐：1945年5月3日 -

陸軍電波兵器練習部

第1教育隊（長岡）

八木斌中佐：1945年5月3日 -

卒業生

富田正一 (詩人)
向井武文
佐藤行通
川村晃
小林正雄 ‐ 伊勢新聞社長

関連項目

拳骨拓史#大空の女神安置運動 ‐ 大空の女神とは、1940年に戦闘機事故の根絶を願い当校の井戸に身を投げた22歳の女性のこと

陸軍通信学校
海軍通信学校
陸軍少年飛行兵
陸軍特別幹部候補生

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