隠岐島前神楽

隠岐島前神楽の概要

隠岐島前神楽（おきどうぜんかぐら）は、島根県の隠岐諸島に位置する島前3島で行われる伝統的な神楽です。この神楽は無形文化財に指定されており、地域の文化遺産として重要視されています。島前の3島とは、西ノ島、中ノ島、知夫里島を指します。それぞれの集落の神社で奉納され、祭りに欠かせない存在となっています。

祭りと神楽の目的

かつて島前神楽は、祈雨や病気の回復を祈る「大注連神楽」（おおしめかぐら）や、神社の遷座祭にあたる「湯立大神楽」（ゆだてだいかぐら）を行っていました。また、豊漁祈願の「浜神楽」（はまかぐら）など、祭りの目的に応じて異なる形式が存在していました。しかし、現在では主に夏祭りでの「大神楽」だけが行われています。特に、西ノ島町の美田にある焼火神社での祭り（毎年7月23日）が有名です。

祭りのバリエーション

その他にも、隠岐諸島内では由良比女神社の海上渡御祭（隔年の7月下旬）や、高田神社（隔年7月18日）、海神社（隔年7月21日）などで異なる神楽が奉納されています。中でも由良比女神社での神楽は、船上で行われるため特に注目されます。

隠岐神楽と他の神楽の比較

隠岐島前神楽は、同じく隠岐諸島で伝承される島後神楽と似た点を多く持っていますが、演目の内容や演奏スタイルにおいては明確に異なります。特に、島前神楽は速いテンポの囃子が特徴で、賑やかな雰囲気を醸し出しています。また、巫女が神懸りの形を保持している点や、出雲神楽の影響を受けた演目があることも魅力のひとつです。これらの理由から、平成36年（1961年）に島根県の無形民俗文化財に指定されました。

隠岐島前神楽の伝承

隠岐諸島では、特定の神社に属さない社家（しゃけ）と呼ばれる神楽師が神楽を伝承しています。現代においては、秋月家と石塚家の2家のみが残り、この両家を中心に隠岐島前神楽保存会が形成されています。社家は神職と神楽師の中間的な存在で、地域の祭礼や祈祷において重要な役割を担っています。社家の起源については不明点が多いですが、秋月家は藤原氏に由来し、長い歴史を持つことがわかります。

神楽舞台と演奏

隠岐島前神楽の演舞は、常設の神楽殿ではなく、仮設の舞台で行われます。この舞台は通常、2間四方の8畳の広さが特徴で、舞台の中央上方には「玉蓋」と呼ばれる天蓋が吊るされています。演者は、舞台の後方中央から出入りし、周囲にいる楽人たちが囃子を担当します。

奏楽の特徴

囃子の構成は特有で、長胴太鼓の演奏者が神歌を歌い上げ、4分の4拍子と4分の3拍子が交互に繰り返される点が特に独自性を誇ります。

演目の多様性

演目にはさまざまなスタイルがあります。「舞い」と「能」に大別され、「舞い」には神々を招く役割を果たす「前座の舞」や、巫女による「神子神楽」が含まれます。「能」には、必須の儀式的な演目があり、出雲神楽の影響を受けた作品も数多く存在しています。演目は地域や年によって異なるため、毎年新たな発見があります。

結び

隠岐島前神楽は、単なる舞台芸術ではなく、地域の信仰や文化の象徴であり続けています。参加する人々が共に神々を感じ、地域に根づいた祭りとしてこれからも大切にされていくことでしょう。

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