雨乞石橋

雨乞石橋

雨乞石橋（あまごいいしはし）は、岐阜県中津川市を流れる木曽川に架かる橋で、現在は市道として供用されています。かつては岐阜県恵那郡坂下町と長野県木曽郡山口村を結ぶ、まさに県境に位置する重要な橋でした。しかし、平成13年（2005年）に両町村が中津川市へ編入されたことにより、現在は中津川市内の橋としての役割を担っています。

誕生の背景とかつての姿

この橋が誕生した背景には、明治時代にこの地域で隆盛を誇った養蚕業が深く関わっています。当時の養蚕業者にとって、蚕の卵である蚕種を低温で管理することは品質維持に不可欠であり、自然の冷気を利用できる風穴が天然の冷蔵施設として重宝されていました。特に、現在の岐阜県中津川市神坂地区にあった風穴は優れた冷涼さを持ち、地域の業者にとって重要な施設でした。しかし、坂下村（後の坂下町）にいた養蚕業者がこの風穴を利用するためには、眼前に立ちはだかる木曽川を渡る必要がありました。

こうした状況の中、明治時代の終わり頃、坂下町の有力な養蚕製造業者が私財を投じ、自らの事業のために木曽川に一本の吊橋を架けました。これが初代の雨乞石橋です。橋の名称もこの際に名付けられました。この橋は本来、架橋者自身の利用を主目的としていましたが、一般の通行者にも門戸を開放し、通行料を徴収する有料橋として運営されました。初代橋は、現在の雨乞石橋からおよそ100メートルほど下流に位置していたとされています。

時代の変遷と橋の移り変わり

初代雨乞石橋は、有料橋として地域の通行を支えていましたが、時代の流れと共にその状況は変化しました。昭和7年（1932年）、初代橋の上流に、より大規模で公共性の高い弥栄橋が完成すると、多くの通行者がそちらを利用するようになり、雨乞石橋の利用者は激減しました。これにより、有料での維持が困難となり、雨乞石橋は次第に無料開放されるに至りました。

さらに、木曽川は時にその流れを激しくし、初代橋はその度に洪水による流失の被害に見舞われました。度重なる流失は、地域の安定した交通路を確保する上で大きな課題でした。安全かつ恒久的な橋梁の必要性が高まり、その結果、昭和61年（1986年）に、現在の堅牢なコンクリート橋へと架け替えられました。これが、現在私たちが目にしている雨乞石橋です。

現在の雨乞石橋の諸元

昭和61年（1986年）に供用が開始された現在の雨乞石橋は、以下の仕様となっています。

延長: 113.0メートル
幅員: 4.0メートル

この橋は、岐阜県中津川市坂下地区と山口地区を結び、地域の生活道路として重要な役割を果たしています。かつての県境の橋として、そして地域産業の発展を支えた歴史を持つこの橋は、現在も中津川市内の交通を支えるインフラとして、静かに木曽川の流れを見守っています。その姿は、地域社会の変遷と、人々の交通への願いを今に伝えていると言えるでしょう。

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