雲陽軍実記

雲陽軍実記について

『雲陽軍実記』は、出雲国における戦国大名・尼子氏の盛衰を描いた軍記物であり、日本の古典文学の一つとされています。この書は、文明16年（1484年）に出雲守護の京極氏によって尼子経久が追放されたところから始まり、天正6年（1578年）に尼子再興軍が壊滅するまでの95年間の歴史を詳細に記録しています。それだけでなく、この文書は当時の日本における戦の様子、人々の心情、そして武士の忠誠心を表現した貴重な資料とされています。

成立と著者

『雲陽軍実記』の成り立ちについては、著者の河本隆政が自らの隠棲生活の中で筆を執り、出雲国や関連する諸国の軍事の様子をまとめたものとされます。彼は当時20歳で従軍し、重傷を負ったことにより尼子氏を致仕し、その後の隠棲生活の中で書いたとされています。この書が完成したのは、天正8年（1580年）の3月であり、序文では「全く実録と為すべきなり」と記し、自身の体験を基にした実録性を強調しています。しかし、現存する写本の中には多くの誤記や字句の相違が見られ、成立時期に関する疑念が絶えません。

伝存の経緯

『雲陽軍実記』は、河本隆政の死後、同族の河本家によって秘録として代々伝えられ、江戸時代に入ると次第に写本が作られて普及していきました。江戸時代に書かれた『雲陽軍実記考』では、この書が広く知られていなかったにもかかわらず、秘蔵されていたことが記録されています。具体的な写本としては、安政5年（1858年）の平仮名本、無記名の片仮名本、また、補正された内容の『補正雲陽軍実記』などがあります。これらの写本が時代ごとに伝わり、近年では明治や昭和に活字本が出版されました。

評価と学術的意義

『雲陽軍実記』の評価は分かれていますが、尼子氏の盛衰を理解するための重要な資料であることには変わりありません。妹尾豊三郎はこの書が有益な資料であるとの見解を示し、勝田勝年は文体に関し「血湧き肉躍る」感を引き起こすと評価しています。また、この書物は尼子氏の栄光や家臣の忠誠心を描く一方で、敵に対する憎悪感情も現れており、当時の戦国時代の社会情勢を伺う貴重な資料ともなっています。

成立年代に関する疑念

一方で、この書の成立時期に関する疑念も指摘されています。書中には明らかに天正8年に書かれたとは考えられない内容や、後世に追加されたとされる箇所が存在するため、その信憑性が問われています。文中には、著者の年齢の記載の矛盾や、鉄砲伝来の年と整合性のない記述が見受けられ、戦国時代の実際を反映したものとしての信頼性が薄れてしまう要因となっています。

結論

『雲陽軍実記』は尼子氏の歴史を記録した重要な文献であり、戦国時代の社会や人々の姿を伝える貴重な資料です。その成立経緯や伝承の過程には多くの不審点が指摘されているものの、今なお研究者や歴史愛好者にとって興味深い研究対象となっているのです。

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