電信法

電信法の概要

電信法（明治33年3月14日法律第59号）は、有線および無線による電信と電話に関する基本的な国の権限関係を規定した法律です。この法律は、電信事業の経営主体を明確にし、政府専掌主義、電話の公共性に基づく特権、通信の秘密の保障、電話利用の基礎条件などを定めました。また、電信事業の確実迅速な運営を目指し、通信の安全性を確保することも重要な目的とされました。

電信法は、ドイツの電信法をモデルとしており、以下のような構成で規定されています。

政府の特権（第1条～第11条）：電信・電話事業を政府が管掌することを明記し、その権限と責任を定めています。
電信・電話の取扱（第12条～第16条）：電報の受付や配達など、電信・電話の具体的な取扱いに関する規定です。
電信・電話の料金（第17条～第23条）：電信・電話の料金に関する規定であり、料金の決定方法や支払い方法などが定められています。
電信・電話に関する損害賠償および報酬（第24条～第26条）：電信・電話の利用によって生じた損害の賠償や、電信・電話事業に関わる報酬について規定しています。
罰則（第27条～第43条）：電信法に違反した場合の罰則を定めています。
雑則（第43条～第47条）：その他の細則や補則などを規定しています。

主な改正点

電信法は、従来の電信条例および電信取扱規則から以下のような点が改正されました。

電報の伝送は政府が管掌することを明確化しました。
民間の私設電線については、一定の条件の下で個人用や営業用専用電線の敷設を認めるなど規制緩和を行いました。
命令の定めるところにより、私設電線を公衆通信や軍用通信に供することができるようにしました。
電信工夫や配達人に対して、渡津、運河、道路、橋梁の通行料金を求めないこととしました。また、電信工事や配達の際に、柵のない宅地や田畑を通行できることを規定しました。
天気図作成のために、中央気象台が全国の測候所から集める観測データの電報を無料で扱うことを明文化しました。
虚偽の電報を発した場合の罰則を強化しました。

電信法の沿革

電信法の制定は、電信電話事業の著しい発展に合わせて、従来の電信条例（明治18年太政官布告第8号）および電報取扱規則（太政官布達第7号）を全面的に改める必要が生じたことに起因します。

1899年（明治32年）から新法の成案作業が開始され、1900年（明治33年）1月18日に第14回帝国議会衆議院に電信法案が上提されました。貴衆両院での審議を経て、同年3月13日に可決、法律第59号として公布されました。

官設無線への準用

電信法が審議中の1900年（明治33年）2月9日には、海軍大学校構内に無線電信調査委員会が発足し、無線電信機の開発が始まりました。海軍省と逓信省で無線通信の実験が行われましたが、初期の無線機では混信が避けられませんでした。

この混信を教訓とし、逓信省は民間による電波利用を禁止する必要性を認め、電信法の適用範囲を拡大し、電波を官設無線に限定する方針を固めました。1900年（明治33年）10月1日、まず有線通信を対象とする電信法が施行され、続いて10月10日の逓信省令により官設無線電信への準用が始まりました。

これにより、電信法は日本で最初の電波に関する法律となり、第一条で「電信と電話は政府が管掌する」と宣言し、第二条の例外規定を除き、企業や個人による私設無線を一切禁じました。後に、1914年（大正3年）には無線電話にも電信法が準用され、政府による無線電信および無線電話の管掌体制が完成しました。

電信法の廃止

電信法は長らく日本の通信事業を支えましたが、1912年（明治45年）のタイタニック号沈没事故を契機に、船舶への無線施設義務化の流れが生まれました。しかし、その費用を政府が全て負担することは困難であったため、1915年（大正4年）に政府は「無線を管掌する」という大原則を放棄し、私設を認めることになりました。

これにより、無線に関する新たな法律「無線電信法」が電信法から独立し、同年11月1日に施行されました。同時に、電信法を無線電信や無線電話に準用するとした逓信省令が廃止されました。

有線に関する部分についても、1916年（大正5年）に改正が行われ、保管電報の公示廃止や無料電報に関する条文の整備などがなされました。

そして第二次世界大戦後、「有線電気通信法（有線法）」と「公衆電気通信法（公衆法）」が施行されたことにより、電信法は1953年（昭和28年）8月1日に廃止されました。

軍用電信法との関係

電信法は、陸軍大臣と海軍大臣の電信電話施設には逓信大臣の権限が及ばないことを明文化しました。これにより、陸軍省、海軍省、逓信省の三大臣が、それぞれ管下の有線施設および無線施設の許認可権を持つことになりました。

1900年（明治33年）10月1日に電信法と同時に施行された「官庁用ノ電信及電話ニ関スル件」では、官庁が電信電話を施設する際、軍用電信法によるものを除き、逓信大臣の定める規程に従う必要があると規定されました。

一方、軍用電信法は、陸軍大臣または海軍大臣が軍用電信を管理することを定めています。

日本の無線通信は、実用化を急ぐ海軍省への協力によって進められたため、日本初の無線規則は逓信省ではなく海軍省によって定められました。

有線通信および無線通信の関連規則と規程

電信法は、法律の規定を必要とする事項や業界の経営に関する基本的な事項のみを規定し、その詳細については、逓信省令にて種々の「規則」を、さらに具体的な運用については逓信省公達にて種々の「規程」を定めました。

有線通信

以下は有線通信に関する主な規則と規程です。

電報規則
電報取扱規程
私設電信規則
官庁用電信電話規程

無線通信

無線通信に関する主な規則と規程は以下の通りです。

無線電報規則
無線電報取扱規程
外国無線電報規則
外国無線電報取扱規程

1903年（明治36年）には、逓信省の無線実験は長崎県－台湾間で通信可能なレベルにまで到達しましたが、海軍省との混信を避けるために一時中断されました。

その後、1908年（明治41年）に銚子無線電信局JCSと東洋汽船の天洋丸無線電信局TTYによる海上公衆通信サービスが開始され、無線電報に関する「規則」と無線局の具体的な通信方法を定めた「取扱規程」が制定されました。また、国際無線電信条約に準拠した規則と規程も整備されました。

このように電信法は、日本の通信事業の発展の基礎を築き、その後の情報化社会の進展に大きく貢献した法律と言えます。

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