電子計算機使用詐欺罪

電子計算機使用詐欺罪：コンピュータ犯罪への対応

電子計算機使用詐欺罪は、コンピュータシステムを悪用して財産上の不正利益を得る行為を処罰する犯罪です。1987年の刑法改正で新設されたこの罪は、当時社会問題となっていた偽造テレホンカードなど、従来の窃盗罪や詐欺罪では処罰しきれない新たな犯罪類型に対応するために導入されました。

従来の法律では対応困難だった問題

1980年代後半、偽造テレホンカードによる不正利用が社会問題となりました。しかし、当時の法律では、この行為を適切に処罰することが困難でした。なぜなら、テレホンカードの利用では、通話料金の支払いが電磁的記録に基づいて自動処理されており、占有の移転が伴わないため窃盗罪が適用できず、また、相手を直接欺く行為がないため、従来の詐欺罪も適用できなかったからです。このため、新たな犯罪類型として電子計算機使用詐欺罪が創設されたのです。

電子計算機使用詐欺罪の構成要件

この罪は、大きく分けて以下の3つの要素から構成されます。

1. 実行行為: 犯罪者は、コンピュータシステムに虚偽の情報を入力したり、不正な指令を与えたりすることで、財産権の得喪・変更に係る電磁的記録（例えば、銀行口座の残高データやプリペイドカードの残高データなど）を不正に作成・変更します。具体的には、銀行員がシステムを操作して架空の入金記録を作成する行為や、プリペイドカードの残高を改ざんする行為などが該当します。

2. 不実の電磁的記録: 実行行為によって作成・変更された電磁的記録は、事実に反する内容（不実）である必要があります。例えば、実際には入金されていないにもかかわらず、入金があったと記録する行為などが該当します。また、この記録は、財産権の得喪・変更に影響を与えるものでなければなりません。

3. 不法利得: 犯罪者は、この不正な電磁的記録によって、財産上の不法な利益を得るか、または他人をして不法な利益を得させる必要があります。これは、不正に入金されたお金を利用したり、無料通話を利用したりするなど、具体的な利益を得ている必要があります。

類型の詳細

実行行為は、主に以下の2つの類型に分けられます。

不実の電磁的記録の作出: コンピュータに虚偽の情報や不正な指令を与え、不実の電磁的記録を作成する行為。
虚偽の電磁的記録の供用: すでに作成された虚偽の電磁的記録を、人の事務処理の用に供する行為。

処罰

電子計算機使用詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役です。未遂についても処罰の対象となり、親族間の犯罪についても適用除外はありません。

判例

これまで、様々なケースで電子計算機使用詐欺罪が適用されてきました。例えば、金融機関職員がシステムを不正操作して自身の口座に不正に入金したケースや、架空の振込情報をシステムに入力したケース、不正な信号を送信して電話料金の支払いを免れたケースなどが挙げられます。これらの判例は、電子計算機使用詐欺罪の適用範囲を示す重要な事例となっています。

関連事項

電子計算機使用詐欺罪は、コンピュータ犯罪の中でも重要な犯罪類型の一つです。この罪の成立要件や判例を理解することは、コンピュータ犯罪の防止や対策に役立ちます。また、関連法規として、電子計算機損壊等業務妨害罪や不正アクセス行為の禁止等に関する法律なども存在します。これらの法律を理解することで、より包括的なサイバーセキュリティ対策を行うことが可能になります。

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