震える舌

震える舌

『震える舌』は、1975年に三木卓によって執筆された小説で、初めての刊行は河出書房新社からでした。後に新潮文庫と講談社文芸文庫でも再刊され、多くの読者に親しまれています。この作品は、破傷風に感染した少女と彼女の家族の苦悩を中心に描いており、作者自身の経験が色濃く反映されています。実際、三木は自らの娘が破傷風にかかった際の苦悩をモチーフにしているとされています。

あらすじ

物語は、三好昌子という名の女の子を主人公に展開します。ある日、昌子は近所のマンションで泥んこ遊びをしていると、地面に落ちていた小さな釘で手をケガしてしまいます。親である昭と邦江は、軽い怪我だろうと考え、家で手当てをします。しかし数日後、昌子の歩き方が普段とは異なることに気づいた父母は、彼女に尋ねます。昌子は「歩けるけど、歩きたくない」と言うものの、その様子は少しおかしい。

心配になった昭と邦江は、昌子を病院に連れていくのですが、医師からは「大したことはない」と診断され、取り合ってもらえません。しかし、昌子はその後痙攣を起こし、自分の舌を噛み切ってしまいます。専門の医師による検査の結果、昌子は破傷風にかかっていることが明らかになり、彼女は隔離された病室に入院することになります。

破傷風の恐怖

破傷風菌は、人間の中枢神経に致命的な影響を与える毒素を産生し、潜伏期を経て発症することがあります。そのため、発症した場合の生還率は極めて低く、人々にとって恐るべき病です。「有史以前から生き続けるこの微生物が、わが子にこんな理不尽な災厄をもたらすのか」と、昭は悲しみに暮れ、邦江は自責の念から錯乱状態に陥っていきます。

昌子の入院生活は過酷で、わずかな光や入院患者たちの笑い声すらも痙攣を引き起こす原因となります。防音された真っ暗な病室で、父母は昌子を懸命に看病し続けますが、精神的にも追い込まれていくのです。しかし、専門医や家族の献身的な看護のおかげで、昌子は徐々に回復していきます。

意識を取り戻した昌子に何が欲しいかと尋ねると、彼女は「チョコパンが食べたい」と答えます。しかし、弱った体調に配慮し、医師は消化の良い別のものを提案します。それでも昌子は「チョコパンだよー！」と叫び、久々に病室に笑い声が響く瞬間となります。

映画化

この小説は1980年に映画化され、監督には野村芳太郎が起用されました。映画は医療ドラマとしての側面も持ちながら、オカルトやホラーの要素が加わっており、予告編では「新しい恐怖映画」と称されていました。主演の昌子役は若命真裕子が務め、その演技力が高く評価されました。この映画は1985年にVHSが発売され、2011年にはDVD版、さらに2014年にはブルーレイ版が発売されるなど、根強い人気を誇っています。

キャストとスタッフ

映画に登場するキャストには、渡瀬恒彦や十朱幸代、若命真裕子などが含まれています。スタッフには脚本家の井手雅人や撮影の川又昂、音楽を担当した芥川也寸志など、多くの才能が結集しています。

この作品は、単なる病気の描写にとどまらず、家族愛や人間の感情が深く掘り下げられているため、読者や観客に強く印象に残る内容となっています。

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