鞍馬天狗横浜に現る

鞍馬天狗横浜に現る

1942年に公開された日本映画『鞍馬天狗横浜に現る』は、伊藤大輔が監督・脚本を手掛け、嵐寛寿郎が主演を務めた時代劇です。大映京都撮影所が製作し、全8巻で構成されています。

あらすじ

舞台は明治初期の横浜。居留地で貿易商を営む悪徳商人ヤコブは、裏では大量の贋金製造で暴利をむさぼっていました。新政府は財政破綻を防ぐため、鞍馬天狗こと浪人・倉田典膳にヤコブの悪事を阻止するよう命じます。倉田はヤコブが経営する曲馬団ダフネに用心棒として潜入し、 Investigationを開始します。

そんな中、盲目の女芸人お力と角兵衛獅子の杉作、チャコの兄妹がヘボン博士に治療してもらうため横浜にやってきます。杉作らは、ヤコブの陰謀によって命を落とした造船技師・小原の遺書を偶然手に入れ、倉田と知り合います。遺書にはヤコブの悪事が詳細に記されており、倉田は杉作とともに贋金工場を発見します。

ヤコブは倉田を抹殺するため、小原の従弟である三浦勝比古を唆し、兄を殺したのは鞍馬天狗だと吹き込み復讐させようとします。こうして、鞍馬天狗とヤコブ一味との激しい戦いが始まります。

概説

本作は、トーキー映画以降スランプに陥っていた伊藤大輔監督が、ミステリーの要素を取り入れた時代劇として高い評価を得て、見事に復活を遂げた作品です。特に、嵐寛寿郎の代名詞とも言える鞍馬天狗を、曲馬団で傘張りをしたり、美女の買い物に付き合うなど、コミカルに演じさせる演出は斬新でした。また、舞台を幕末から開国後の横浜に移すことで、旧来の江戸の雰囲気と西洋文明が混ざり合った独特の世界観を創り上げています。

伊藤監督は、ロケ地の岡山県玉野市の造船所で、嵐寛寿郎に300メートルを疾走しながらの乱闘シーンをワンカットで撮影するという大胆な演出を試みました。伊藤監督は嵐寛寿郎の殺陣を高く評価する一方で、「完成されすぎている」と感じており、あえて破調のリズムを与えることで新たな魅力を引き出そうとしたのです。

全力疾走しながら刀を振り回すという難易度の高いシーンに、嵐寛寿郎も当初は難色を示しましたが、伊藤監督の熱意に打たれ、見事に演じ切りました。試写を見た伊藤監督は、300メートル走りながらも裾が全く乱れていない嵐寛寿郎の完璧な立ち回りに感銘を受け、「アラカン、このひともわざおぎです」と絶賛しました。嵐寛寿郎自身も「すごい迫力や。走れるものやなあと我ながら感激してしもた」と語っています。

しかし、戦後、進駐軍の検閲により、この疾走シーンは残念ながらカットされてしまい、現在では見ることができません。

戦後には、『鞍馬天狗・黄金地獄』と改題されてリバイバル上映されました。

キャスト

倉田典膳：嵐寛寿郎
お力：琴糸路
小原正樹・三浦勝比古：原健策
小原由香：内田博子
杉作：沢勝彦
チャコ：上田玲子
ヤコブ：上山草人
ヘボン先生：A・ペトロヴィチ
ドロシー：G・コズロヴァ
王大年：山本冬郷
ほか

スタッフ

原作：大佛次郎
脚本・監督：伊藤大輔
撮影：石本秀雄
美術：角井平吉
音楽：西悟郎

もう一度検索