音の絵

ラフマニノフの「音の絵」：想像力を刺激するピアノ曲集

セルゲイ・ラフマニノフのピアノ独奏曲集『音の絵』（Études-tableaux）は、作品33と作品39の2巻で構成されています。これらの作品は、単なる練習曲にとどまらず、音楽を通して様々な情景や感情を描き出すことを意図して作曲されました。

ラフマニノフ自身は、各曲がどのような情景を暗示しているのかを具体的に語ることを避けました。「私は、自分のイメージをあまりにひけらかすような芸術家を信用しない。誰でも、音楽から連想したものを自由に描き出せばよい」という言葉を残しており、聴き手それぞれの自由な解釈を尊重する姿勢を示しています。

作品33

1911年に作曲された作品33は、当初9曲からなる予定でしたが、実際に出版されたのは6曲のみでした。残りの楽曲は、後に作品39に収録されたり、遺作として発表されたりしました。作品全体を通して、高度な演奏技巧が要求されます。

第1曲 ヘ短調：手の交替とシンコペーションの練習曲。ショパンのエチュード作品25-4との類似性が指摘されています。
第2曲 ハ長調：トロイカを連想させる装飾音型が特徴的で、作曲者自身も好んで演奏しました。
第3曲 ハ短調（遺作）：葬送行進曲風の前半と、長調に転じた美しい後半からなる二部形式。
第5曲 ニ短調（遺作）：3/4拍子と4/4拍子が頻繁に交代します。
第6曲 変ホ短調：両手の交叉と左手の跳躍の練習曲。
第7曲 変ホ長調：市場の情景を描写したと言われ、陽気で力強い雰囲気が特徴です。
第8曲 ト短調：感傷的な旋律が美しく、ブラームスの影響が感じられます。
第9曲 嬰ハ短調：稲妻と遠雷を描写したかのような、リズミカルな和音の交替が印象的な作品です。

作品39

1920年に出版された作品39は、ラフマニノフがロシア時代に完成させた最後の曲集です。この作品集では、メランコリックな旋律は控えめになり、リズムやコード進行に重点が置かれるようになりました。全体的に技巧的な難易度が高く、演奏者を苦しめます。

第1曲 ハ短調：様々なテクスチュアが用いられた練習曲。
第2曲 イ短調：「海とかもめ」という愛称で知られ、クロスリズムが特徴的です。
第3曲 嬰ヘ短調：様々な音程の練習曲で、エネルギッシュなリズムが印象的です。
第4曲 ロ短調：手と指を広げる練習曲で、拍子が自在に変化します。
第5曲 変ホ短調：スクリャービンの影響が感じられる、情熱的な旋律が特徴の難曲です。
第6曲 イ短調：「赤頭巾ちゃんと狼」と評され、ユーモラスな雰囲気が漂います。
第7曲 ハ短調：作品33-3に似た、荘重な葬送行進曲です。
第8曲 ニ短調：重音と叙情的な旋律が組み合わされた練習曲。
第9曲 ニ長調：曲集を締めくくる、壮大な行進曲です。

レスピーギによる管弦楽版

セルゲイ・クーセヴィツキーの依頼により、オットリーノ・レスピーギは『音の絵』から5曲を選び、管弦楽編曲版を作曲しました。レスピーギは、ラフマニノフから各曲のイメージを聞き取り、原曲の構成や調性を尊重しながら、色彩豊かなオーケストレーションを施しました。しかし、この編曲版は、『展覧会の絵』ほどの人気を得ることはありませんでした。

海とかもめ（作品39-2）
祭り（作品33-7）
葬送行進曲（作品39-7）
赤頭巾ちゃんと狼（作品39-6）
行進曲（作品39-9）

『音の絵』は、ラフマニノフの豊かな音楽性と、聴き手の想像力を刺激する魅力的な作品群です。ピアノ独奏版だけでなく、レスピーギによる管弦楽版も、ぜひ聴いてみてください。

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