音羽正彦

音羽正彦：皇族から海軍軍人へ、そして散華

音羽正彦（おとわただひこ）は、1914年（大正3年）に朝香宮鳩彦王の次男として誕生しました。皇族としての身分を有しながら、海軍軍人としての道を歩み、数々の激戦を経験、30歳という若さで戦死しました。その生涯は、特権階級に生まれながらも、国民の一員として国に尽くそうとした、ある青年の物語です。

華麗なる経歴と激動の時代

学習院中等科卒業後、海軍兵学校に入校。同期の伏見博英、千早猛彦らとともに厳しい訓練の日々を過ごしました。兵学校時代には、広島県西条での宿営中に地元民から畳の上で寝てほしいと頼まれた際、「ぼくは国民のデコレーションではないよ」と発言した逸話は、彼の信念を象徴するエピソードと言えるでしょう。

1936年（昭和11年）、海軍兵学校を卒業。少尉に任官すると同時に臣籍降下し、音羽侯爵家を賜りました。その後は、「羽黒」「五十鈴」「長門」など複数の艦艇に勤務。1938年（昭和13年）には、日中戦争に参戦。上海海軍特別陸戦隊で土師喜太郎少佐の指揮下、砲隊中隊長として田家鎮攻略、馬鞍山攻撃など数々の激戦を経験します。泥まみれの軍服、伸び放題の髭という、華麗な皇族の身分とはかけ離れた姿で戦い抜きました。

この頃、同期の平塚清一に「戦闘というものは、決して格好いいものでもないし華やかなものでもないよ。泥まみれ、ずぶ濡れになり、兵隊とともに苦労するのが戦闘なんだ」と語ったというエピソードは、彼の戦争観をうかがい知ることができます。

その後、「赤城」「山城」「陸奥」などで分隊長を務め、1942年（昭和17年）11月には「陸奥」の副砲長に昇進。しかし翌1943年、「陸奥」は爆沈し、かつての上官である土師少佐も殉職するという悲劇に見舞われます。同年、海軍砲術学校高等科に進学。

クェゼリン島での最期

砲術学校卒業間際には、「アメリカの進攻も激しくなってきた。今こそ頑張らねば。おれは第一線へ出ていって働くぞ」と前線行きを希望。第6根拠地隊参謀としてマーシャル諸島クェゼリン島へ赴任します。この異動は、同期の湯原博から危険すぎるとして異議が唱えられましたが、音羽自身の強い希望によるものでした。

1944年（昭和19年）2月6日、クェゼリンの戦いにおいて、5日間の死闘の末、戦死。享年31歳でした。戦死後、海軍少佐に追進されました。

高松宮宣仁親王の日記には、音羽のクェゼリン島への転属について「危険だから」という理由で異動させたにも関わらず、米軍が上陸してきたことが記されています。

多才な人物像

音羽正彦は、軍人としての活躍だけでなく、多方面に才能を発揮した人物でした。運動神経抜群で、皇族初の講道館柔道初段の腕前。兵学校時代は名ショートとして知られ、ラグビーやテニスも得意としていました。百メートル競争では11秒8という記録を残しています。

1940年（昭和15年）、大谷尊由の次女と結婚しましたが、子供には恵まれず、音羽侯爵家は彼の死によって断絶しました。

功績と記憶

音羽正彦は、皇族としての特権を放棄し、国民の一員として戦火に身を投じました。彼の生涯は、激動の時代を生きた一人の青年の物語であり、そして、私たちに多くのことを語りかけてくれる存在です。彼の功績と記憶は、これからも語り継がれていくべきでしょう。彼の生き様は、私たちに勇気と希望を与え続けてくれます。

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