領海及び接続水域に関する条約

領海及び接続水域に関する条約（領海条約）

「領海及び接続水域に関する条約」は、1958年4月29日にスイスのジュネーヴで採択され、1964年9月10日にその効力が発生した国際協定です。全32カ条から成り、しばしば「領海条約」と略称されます。この条約は、当時52カ国によって批准されました。これは、1958年に開催された第1次国連海洋法会議において採択された、海洋法に関する四つの主要な条約（ジュネーヴ海洋法4条約）の一つであり、領海と接続水域に関する基本的な制度を定めたものです。

制定までの経緯

本条約が成立するまでの道のりは、国際連合における長年の法典化作業に遡ります。1947年、国連総会は国際法の法典化を任務とする国連国際法委員会（ILC）を設立しました。1949年のILC第1会期から、領海制度の国際法としての整備が検討されるべき主要な議題の一つとなりました。領海制度に関する特別報告者として指名されたJ.P.A.フランソワ氏は、基線の引き方や湾の定義、隣り合う国々の領海境界画定方法などについて広範な調査を実施しました。専門家や各国の政府からの意見を参考に、フランソワ氏はILCに報告書を提出し、これに基づき、ILCは1954年の第6会期および1955年の第7会期において、領海制度に関する条文草案を採択しました。

さらにILCは、1956年の第8会期で、この領海制度を含めた海洋法制度全体を網羅する73カ条からなる包括的な条文草案を取りまとめました。ILCはこの草案を条約として成立させるため、国際法に関する重要な問題を話し合う外交会議の開催を国連総会に勧告しました。この勧告を受け、国連総会は決議1105 (XI)を採択し、これにより1958年にジュネーヴで第1次国連海洋法会議が開催される運びとなりました。86カ国が参加したこの会議では、ILCが作成した73カ条の草案を土台として詳細な審議が行われました。その結果、本条約の他に、大陸棚に関する条約、公海に関する条約、漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約の計4つの条約が採択されました。これらがまとめて「ジュネーヴ海洋法4条約」として知られています。

条約の内容

領海条約は、現代の領海および接続水域に関する制度の基礎を確立する上で極めて重要な役割を果たしました。その内容は、領海の一般的な地位（第1条、第2条）、領海の範囲やその限界を定める方法（第3条から第13条）、外国船舶が領海内を通航する際の「無害通航権」（第14条から第23条）、そして領海に接続する「接続水域」（第24条）に関する規定を含んでいます。

特に、領海に対する国家の権能について、本条約は明確な規定を設けています。第1条第1項では、「国の主権は、その領土及び内水をこえ､その海岸に接続する水域で領海といわれるもの」に及ぶと定めています。さらに第2条では、この主権が「領海の上空並びに領海の海底を及びその下に及ぶ」ことを確認しています。これにより、沿岸国は領海だけでなく、その上空や海底、さらに海底下の資源などに対しても全面的かつ排他的な主権を行使できることが国際法として認められたのです。

国連海洋法条約との関係

領海条約が採択された時点では、各国の意見の隔たりが大きく、領海の正確な幅について具体的な規定は盛り込まれませんでした。しかし、その後、海洋法に関する包括的な国際条約として1982年に採択された「海洋法に関する国際連合条約（国連海洋法条約）」において、この点に関する規定が設けられました。国連海洋法条約の第2部（第2条から第33条）は「領海及び接続水域」に関する規定を置き、領海の最大幅を基線から12海里までと明確に定めました。

国連海洋法条約は、領海の幅以外にも若干の相違点を持ちつつも、基本的には本条約を含むジュネーヴ海洋法4条約によって確立された制度を統合し、さらに現代の海洋利用や技術の進展に合わせて発展させたものです。そのため、国連海洋法条約の締約国間においては、海洋法に関する事項に関して、ジュネーヴ海洋法4条約よりも国連海洋法条約の方が優先的に適用されることとなっています（国連海洋法条約第311条第1項）。本条約は、その後の現代海洋法体系、特に国連海洋法条約の重要な基礎となりました。

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