飛田停留場

飛田停留場（とびたていりゅうじょう）

飛田停留場は、かつて日本の大阪府大阪市西成区に所在していた、南海電気鉄道が運営する平野線の鉄道停留場です。都市における路面電車の停車場として機能していましたが、同線が廃止されたことに伴い、現在は存在しない廃駅となっています。

歴史

飛田停留場の開業は、1914年（大正3年）4月26日に遡ります。これは、当時の阪堺電気軌道株式会社（旧社）が、今池停留場と平野停留場を結ぶ平野支線を開業させた日と同日です。開業当初からこの路線上に設けられた停車駅の一つとして、地域の交通網の一部を担いました。

その後、運営主体である阪堺電気軌道は他の鉄道事業者との合併などを経て、最終的には南海電気鉄道の路線網の一部となりました。平野線もその例外ではなく、飛田停留場は南海電気鉄道の停留場として営業を続けました。

時代の変遷と共に、都市の交通体系は大きく変化しました。モータリゼーションの進行や、大阪市内の他の公共交通機関の整備・拡充などが進む中で、南海平野線は運営環境が厳しくなっていきました。そして、1980年（昭和55年）11月28日をもって、南海電気鉄道平野線はその全ての区間が廃止されることとなりました。これに伴い、飛田停留場もまた、約66年間にわたるその営業の歴史に終止符を打ち、廃止されました。

駅名の由来

停留場名である「飛田」は、その位置する場所が、かつて栄えた飛田遊郭に近接していたことに由来しています。飛田遊郭への訪問客にとって、鉄道（当時の路面電車）を利用してアクセスする際の最寄りの降車場所として、飛田停留場が機能していたため、その地域名がそのまま駅名として採用されたと考えられています。

停留場構造

飛田停留場の詳細な構造に関する具体的な資料は多くありません。しかし、一般的な路面電車の停留場として、利用者が安全に乗降するための簡素なプラットホームが設けられていたと推測されます。後述する「その他」の項目で触れるように、当停留場に関連する特異な構造物に関する逸話が存在します。

停留場周辺

停留場が位置していたエリアは、駅名の由来ともなった飛田遊郭の跡地が広がる地域です。現在もその一帯は、当時の名残をとどめる独特の景観を持つ地域として知られています。歴史的な背景を持つこの周辺環境は、飛田停留場がかつて果たしていた役割を物語るものです。

その他（特記事項）

飛田停留場に関しては、特異な構造物に関する逸話が語り継がれています。それは、停留場の敷地の境界付近に、高さのある壁が存在していたというものです。この壁の存在理由については複数の説が存在しますが、特に有名な一説として挙げられるのは、近隣の飛田遊郭で働いていた女性たちが、この停留場を利用して遊郭から逃亡しようとするのを物理的に阻止するために、人目を避けつつ容易に乗り場へ到達できないように設置されたのではないか、というものです。ただし、この説が歴史的な事実であるか、あるいはどのような目的で、いつ頃設置されたのかといった詳細については、確たる公式記録などが少なく、あくまで「一説」として伝わっている内容であることを強調する必要があります。

現在、飛田停留場が存在した場所やその周辺の土地利用は大きく変化しています。かつて線路が敷かれ停留場が置かれていた場所は、農地（耕作地）として利用されるなど、往時の鉄道施設の面影はほとんど残されていません。地域の景観は様変わりし、かつてここが鉄道交通の要衝の一つであったことを示すものは、地名やわずかな記録の中にしか見られません。

隣の停留場

南海電気鉄道平野線における飛田停留場は、以下のように隣接する停留場がありました。起点方（今池寄り）から見ると、今池停留場、飛田停留場、終点方（平野寄り）へ阿倍野停留場と続いていました。

• - 今池停留場 - 飛田停留場 - 阿倍野停留場

結び

飛田停留場は、短くない歴史を持ち、特定の地域社会や文化（飛田遊郭）と密接に関連していた停留場であったと言えます。その廃止は、南海平野線という路線の消滅というだけでなく、地域の交通網の変化や、戦後日本の社会・経済構造の変化を示す一例とも言えるでしょう。現在はその場所を訪れても、過去の停留場の姿を直接見ることはできませんが、廃止された鉄道遺産として、また地域の歴史を示す場所として、その存在は記憶されています。平野線全体の廃止は、路面電車が都市交通の主役から姿を消していった時代の流れを象徴する出来事の一つであり、飛田停留場はその一端を担っていました。

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