飯尾氏

飯尾氏：遠江と尾張の二系統

飯尾氏は、日本の歴史において重要な役割を果たした氏族です。大きく分けて、三善氏を起源とする遠江飯尾氏と、織田氏から分かれた尾張の飯尾氏の二系統が存在しました。それぞれの系統について、詳細に見ていきましょう。

遠江飯尾氏：三善氏から今川氏へ

遠江飯尾氏の起源は、三善氏にあります。三善倫忠の代に飯尾姓を名乗り、室町幕府の奉行衆を務めた家柄でした。伝統的には、飯尾長連の代に駿河国に進出し、今川氏の家臣となったとされています。

しかし、史料『宗長手記』によると、長連は当初三河吉良氏の家臣であり、遠江国浜松荘の代官を務めていたことが明らかになっています。今川義忠の遠江侵攻時に加勢を試みましたが、義忠と共に駿河へ撤退する際に戦死したと記されています。

『山科家礼記』応仁2年（1468年）7月5日条には「吉良殿内飯尾善四郎」という記述があり、これは飯尾氏当主の通称です。この記録は、飯尾氏が今川氏の譜代ではなく、吉良氏の家臣であったことを裏付ける重要な証拠となっています。

吉良氏家臣の中には、今川義忠に抵抗した者もいました。長連はこうした勢力との争いに敗れた可能性があります。その後、吉良氏は遠江守護・斯波氏の要請に応じ、長連の子である賢連ではなく、斯波氏に近い大河内貞綱を代官に任じました。

浜松荘と引馬城（後の浜松城）を巡り、斯波義達と今川氏親が争うことになります。永正5年（1508年）、今川氏親が斯波義達から遠江守護職を奪い、永正14年（1517年）には斯波義達を捕虜として遠江全域を制圧しました。

この結果、吉良義堯は今川氏親の娘婿となり和睦し、遠江から撤退。飯尾賢連は今川氏親から浜松荘と引馬城を与えられ、今川氏の被官となりました。戦国時代には、賢連の子・乗連が今川義元に従軍し、桶狭間の戦いで戦死しました。

乗連の子・飯尾連龍は、今川氏真に仕えましたが、徳川氏と内通して今川氏から離反しました。その後、今川氏真に騙され殺害されたため、遠江飯尾氏の嫡流は断絶しました。

尾張飯尾氏：織田氏から豊臣氏へ

尾張の飯尾氏は、織田氏の一族である清洲の守護代・織田敏宗（または織田敏定）の子が、尾張国の土豪飯尾氏の養子となり、飯尾定宗と名乗ったことに始まります。定宗は織田信長に仕え、桶狭間の戦いで戦死しました。

定宗の後を継いだ尚清（信宗）は赤母衣衆となり、本能寺の変後は織田信雄、さらに豊臣秀吉に仕えました。嫡子・敏成は尚清に先立って亡くなったため、嫡流は絶えましたが、尚清の弟・飯尾重宗の系統が続きました。重宗の嫡子・敏隆も早世したため、敏成の弟を養子として永沼と名乗らせました。

系譜と関連氏族

飯尾氏の系譜は複雑であり、それぞれの系統で分岐や断絶を繰り返しています。また、町野氏、太田氏、一宮氏、矢野氏、布施氏など、近隣の氏族との関係も深く、今後の研究が待たれます。

飯尾氏の歴史は、室町時代から戦国時代にかけての激動の時代を反映しており、その興亡は日本の歴史を語る上で重要な一端を担っていると言えるでしょう。

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