飯田哲也 (野球)

飯田哲也（いいだてつや）

プロ野球選手として東京ヤクルトスワローズ（現東京ヤクルトスワローズ）の黄金時代を牽引し、引退後もコーチや解説者として野球界に貢献し続ける飯田哲也氏は、1968年 5月18日に東京都調布市で生を受けた。類まれなる身体能力とひたむきな努力で、多くの野球ファンにその名を刻んだ。

野球への情熱とプロへの道

小学校低学年から野球に親しみ、後楽園球場で見た往年の名選手たちのプレーに感動し、プロ野球選手になることを夢見るようになる。小学校4年生で投手として本格的に野球を始め、中学時代も投手として活躍し、市大会優勝を経験した。高校進学にあたっては、顧問の先生と拓大紅陵高校の小枝守監督が日大の同級生だった縁もあり、同校の環境に惹かれて入学を決めた。

拓大紅陵高校では外野手に転向。さらに2年生時には、50メートル走6秒1という俊足と遠投100メートル以上の強肩という抜群の身体能力を見込まれ、捕手へとコンバートされる。3年次には春夏連続で甲子園に出場し、特に第58回選抜高校野球大会では本塁打を放ち、1イニング3補殺を記録するなど、捕手として攻守にわたる活躍を見せた。同年のドラフト会議では、同学年の捕手の中でも注目を集める存在だった飯田氏は、ヤクルトスワローズから4位指名を受けて入団。身体能力の高さと野球センスが球団から高く評価された。

ヤクルト黄金期を彩った名手

ヤクルト入団後、正捕手・八重樫幸雄に次ぐ2番手捕手の座を狙っていたが、野村克也監督の就任が彼のキャリアを大きく転換させる。野村監督は当初、飯田氏の強肩を買って正捕手候補として期待したが、彼の俊足に着目し、最終的にはコンバートを決断。内野手（二塁手、遊撃手）を経て、1991年には中堅手に定着する。この中堅手へのコンバートは、彼の選手人生にとってまさに「天職」とも呼べるものだった。

外野手としての適応は目覚ましく、転向初年度の1991年から1997年まで7年連続でゴールデングラブ賞を受賞。セ・リーグにおける中堅手の連続受賞記録としては、山本浩二氏に次ぐ歴代2位の快挙である。打撃面でも1番打者として定着し、1992年にはキャリアハイとなる打率.292を記録し、33盗塁で盗塁王のタイトルを獲得。この年にはチームの14年ぶりとなるリーグ優勝に大きく貢献し、ベストナインにも選出された。日本シリーズでも攻守に躍動し、特に1993年の日本シリーズ第4戦で見せた約70メートルからのダイレクトバックホームは、今なお語り草となる伝説的なプレーであり、飯田氏自身も最高のプレーとして挙げている。この活躍により、2度日本シリーズ優秀選手賞を受賞した。

走塁においては、単に速いだけでなく、状況判断に優れ、常に次の塁を狙う意識が高かった。1992年には初回先頭打者ランニング本塁打や、単独でのホームスチールを成功させるなど、記憶に残る走塁も見せている。守備では、浅めの守備位置から広い守備範囲を誇り、神宮球場の金網を駆け上がるキャッチや三角飛びでの本塁打阻止など、度肝を抜くプレーでファンを魅了した。

しかし、キャリアの後半は度重なるケガに悩まされ、出場機会が徐々に減少。それでも、その守備力は高く評価され続けた。野球への貢献はグラウンド上だけにとどまらず、1994年からは神宮球場に「飯田シート」を設置し、少年たちを試合観戦に招待する活動を続け、2002年にはゴールデンスピリット賞を受賞している。

新天地と引退、そして第二の人生

2004年オフ、ヤクルトの戦力構想から外れた飯田氏は、現役続行を希望し、新規参入した東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍。楽天では二軍での調整期間もあったが、一軍では通算打率.307という高打率を残すなど、ベテランとしての存在感を見せた。創設間もない若いチームにおいて、自身の豊富な経験を伝える役割も担った。

2006年、野村監督からの勧めもあり、現役引退を決意。引退試合ではフルキャストスタジアム宮城のファンから盛大な拍手を受けた。試合後の引退セレモニーでは、ファンや関係者への感謝の言葉を述べ、惜しまれつつ19年間の現役生活に幕を下ろした。

引退後は、古巣ヤクルトや福岡ソフトバンクホークスで守備・走塁コーチ、打撃コーチなどを歴任し、後進の指導にあたった。また、TBSチャンネルやDAZNなどで野球解説者・評論家としても活動。2020年には学生野球指導資格を回復し、母校である拓大紅陵高校で非常勤コーチを務めるなど、多方面から日本の野球界を支えている。

驚異の身体能力とアスリート像

飯田氏の特筆すべき点は、その驚異的な身体能力である。現役オフにはTBS系の人気番組『スポーツマンNo.1決定戦』に5回出場し、第1回大会と第5回大会で総合優勝を果たすなど、野球選手としてだけでなくアスリートとしても超一流であることを証明した。番組では跳び箱競技などで活躍し、「跳び箱の人」として野球ファン以外からも広く認識されるきっかけとなった。体操の監物永三氏が「体操選手になっていれば間違いなく世界一になった」「20年に一人現れるかどうかの逸材」と絶賛したほどだ。

走塁面では、盗塁技術に加え、併殺崩れの間に二塁から一気に生還するなど、常に先の塁を狙うアグレッシブな姿勢が持ち味だった。守備では、レンジファクターでセ・リーグ1位を3度記録するなど、データ面でもその守備力の高さが裏付けられている。

飯田哲也は、ヤクルトスワローズの黄金期において、攻守走の三拍子揃ったプレーでチームを牽引した稀代のセンターである。その華麗な守備、果敢な走塁、そして勝負強い打撃は、多くの野球ファンの記憶に深く刻まれている。現役引退後も指導者や解説者として野球への情熱を燃やし続ける彼の存在は、日本のプロ野球史において重要な一頁を飾っている。

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