首の座

映画『首の座』の詳細

『首の座』は、日本の無声映画時代を代表する作品として、1929年にマキノ・プロダクション御室撮影所によって製作されました。監督は未来の映画界の巨匠、マキノ正博がわずか21歳で務め、当時の映画界に新たな風を吹き込みました。上映日は9月20日で、白黒のスタンダードサイズで発表されました。

この映画は、マキノ正博が以前に監督した『浪人街 第一話 美しき獲物』で共演した脚本家の山上伊太郎との再コラボレーションによって生まれました。さらに、同じく『浪人街』で演技したキャストたちが再び集結し、谷崎十郎、河津清三郎、根岸東一郎、桜木梅子などの芸達者たちが集いました。

特筆すべきは、この映画が成功したかどうかという点です。評論家たちの間では「ファンの期待を裏切らない」「挑戦的な作品」と、高い評価が寄せられましたが、実際の興行成績は振るわず、商業的に失敗を喫しています。

映画の制作の背景には、監督マキノ正博の父、牧野省三の影響が色濃く残っています。省三は病に伏していたため、正博に脚本をもとに制作するよう命じます。もともと省三が自身で監督する予定だった作品でしたが、運命の悪戯で、父は映画の製作開始前日、つまり7月25日に亡くなりました。撮影所での撮影が続く中、正博は父の遺志を継ぐ形で、本作の完成を目指しました。

映画製作中、マキノ正博は新技術として「スクリーン・プロセス」に挑戦しましたが、壁面に映写する特殊な布の映像が期待通りに映らず、失敗に終わりました。しかし、その後の偶然により、布が湿って映写された映像が予想以上の効果を生み出しました。この出来事から、正博は新たな映画技術の扉を開いたとされています。

さらに、この映画の中で、主演の河津清三郎が自然な演技にこだわるあまり、プライベートでの出来事からユーモラスなシーンが生まれ、彼の名が広がるきっかけとなったことも注目されています。彼が自らの恋人の死に悲しむ演技を試みた際、偶然に起こった失敗がフィルムに収められ、多くの人々に印象を与えました。

『首の座』はキネマ旬報のベストテンで2年連続1位に選ばれるほどの評価を得ましたが、正博にとっては父の死後の苦労の中で作り上げた多分野な作品でありながら、興行的には成功とは言えず、営業面での影響を受け続けました。本作の公開は、省三の死からわずか2か月後のことであり、東京銀座のシネマ銀座を皮切りに、一般公開されました。

映画のタイトル『首の座』は、罪人が処刑の際に座る場所を指しており、作品の内容を象徴する重要な要素とも言えます。しかしながら、現在この映画のプリントは残っておらず、再上映される機会はほとんど無いのが実状です。『首の座』は、映画製作の舞台裏での多くの人々の思いを映し出す、そんな作品として、映画史に残る存在です。

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