香坂英典

埼玉県出身の香坂英典氏は、1957年10月19日に生まれました。右投右打の投手として、プロ野球の世界で活躍し、引退後も長く球界に貢献しています。

プロ入り前、埼玉県立川越工業高等学校では3年夏の県大会でベスト4に進出しました。秋には特別な追加セレクションを経て、中央大学理工学部土木工学科へ進学します。大学野球部では、当初メンバー外で合宿所にも入れませんでしたが、2年時から練習での投球が評価され、東都大学野球リーグ戦への登板機会を得ました。

特に輝きを放ったのは4年生の1979年春。東洋大学との開幕戦で、リーグ史上7人目となるノーヒットノーランを達成し、同時に毎回奪三振（15個）の記録も打ち立てました。このシーズンは7勝1敗という抜群の成績でチームを優勝に導き、最優秀投手、MVP、ベストナインといった個人タイトルも総なめにしました。春季優勝を受けて出場した全日本大学野球選手権大会では、後にプロで活躍する岡田彰布氏を擁する早稲田大学にも勝利。さらに同年夏の日米大学野球選手権にも日本代表として選出されました。

しかし、日米野球では腰痛に悩まされ、秋季リーグ戦では右肩痛を発症するなど、怪我の影響も受けました。それでもリーグ戦通算50試合に登板し、18勝14敗、防御率2.51、170奪三振という実績を残しています。硬式野球部には、後にヤクルト監督となる小川淳司氏や、阪急などで活躍した熊野輝光氏が同期におり、横浜で「スーパーカートリオ」の一員として鳴らした高木豊氏などが1学年後輩にいました。

1979年秋、大学の先輩にあたる伊藤芳明氏（元巨人投手）の誘いを受け、伊藤氏がスカウトを務めていた読売ジャイアンツへ、当時のドラフト外制度を利用して入団しました。大学時代の実績に加え、カーブ、シュート、スライダー、パームボールといった多彩な変化球を投げ込む本格派として、当時の長嶋茂雄監督からも即戦力として期待が寄せられました。

プロ入り後、1年目の1980年には早くも一軍公式戦にデビュー。同年11月、熊本で行われた王貞治氏の引退試合（オープン戦）では、救援登板して非公式ながら勝利投手となりました。

公式戦での初勝利は、1983年8月26日の対ヤクルトスワローズ戦（後楽園球場）です。同点の9回裏、二死満塁のピンチで救援登板し、中央大学時代の同期である代打・小川淳司氏を打ち取りました。その裏、味方打線がサヨナラ本塁打を放ったことで、自身に白星が転がり込むという劇的な一勝でした。しかし、一軍での登板は1980年、1982年、1983年の3シーズンに留まり、通算1勝という成績でした。1984年、王貞治氏が監督に就任した年に現役を引退しています。

実働5年で選手生活を終えた後も、香坂氏は長きにわたり巨人に在籍し続けました。王監督の下で打撃投手（1985年）を務めた後、先乗りスコアラー（1986年-1991年）として偵察活動に従事。藤田元司監督の第二次政権末期である1992年からは、球団の広報として、藤田、長嶋、原辰徳、堀内恒夫と4代の監督を支えました。広報時代には『週刊ベースボール』からのコラム執筆依頼を、業務多忙のため固辞したというエピソードも残っています。堀内監督退任後の2005年からは、編成調査室長やファンサービス部次長などを歴任。2017年には球団の定年（60歳）を迎えましたが、その後も嘱託職員として2020年まで巨人に貢献しました。

巨人退団後の2021年4月からは、『週刊ベースボール』で「巨人軍広報の回顧録 裏方が見たジャイアンツ」という連載コラムを執筆。広報として経験した舞台裏の出来事を綴り、100回を超える人気連載となりました。この連載を基にした著書『プロ野球現場広報は忙しかった。 裏方が見たジャイアンツ黄金時代』が、2024年6月に出版されています。

また、巨人を退団した直後の2020年末に学生野球資格回復研修を受講し、2021年2月に日本学生野球協会から資格回復の認定を受けました。これにより高校や大学での指導が可能となりました。2022年からは、巨人よりも長い歴史を持つクラブチーム、全府中野球倶楽部でコーチを務めています。これは、巨人広報時代に親交を深めた航空自衛隊関係者からの依頼によるもので、指導経験のない中、古豪再建という新たな挑戦に臨んでいます。

選手としては通算1勝に終わりましたが、引退後は球団の多岐にわたる部署で要職を歴任し、裏方としてチームを支え続けました。現在は指導者としてアマチュア野球の振興に力を注ぐなど、香坂英典氏の野球人生は、選手、職員、指導者と様々な形で野球界に貢献し続けています。

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