香里団地

香里団地：戦後復興と都市開発の象徴

香里団地は、大阪府枚方市香里ヶ丘に位置する、UR都市機構（旧日本住宅公団）が運営する大規模な住宅団地です。1958年の入居開始以来、日本の住宅政策、都市開発、そして地域社会の変遷を映し出す歴史的にも重要な場所となっています。

開発の背景と規模

香里団地の開発は、戦後の急激な人口増加と住宅不足という深刻な社会問題への対応として始まりました。旧東京第二陸軍造兵廠香里製造所の跡地、約155万㎡という広大な敷地に、日本住宅公団が土地区画整理事業として開発を進めました。計画人口2万2000人、計画戸数5850戸という、当時としては前例のない大規模なプロジェクトでした。賃貸の集合住宅と分譲の戸建住宅が混在する、多様な居住形態を想定した設計となっています。

完成当時は「香里ニュータウン」とも呼ばれ、常盤平団地（千葉県松戸市）、上野台団地、霞ヶ丘団地（埼玉県ふじみ野市）、松原団地（埼玉県草加市）、男山団地（京都府八幡市）、高島平団地（東京都板橋区）などと共に「東洋一のマンモス団地」として、国内外から注目を集めました。その規模の大きさは、日本国内の有識者や海外からの視察団がバスツアーで訪れるほどでした。

設計と建築の特徴

香里団地の基本計画は、住宅計画研究で著名な京都大学工学部の西山夘三研究室に委託されました。西山研究室は、野外劇場や市民劇場といった斬新なアイデアを提案し、その一部は実際の設計に反映されています。

集合住宅は、単身者から家族まで対応できるよう、1DKから4Kまでの様々な間取りが用意されました。3階建て、5階建ての中層棟が中心でしたが、後に10階建ての高層棟も建設されました。棟の配置は、広場や児童公園を設けることで、住民同士の交流を促進する設計が工夫されています。

また、香里ヶ丘中央公園、香里ヶ丘南公園（自然の雑木林が残された）、重森三玲設計の日本庭園である以楽苑など、大小様々な公園が計画的に配置されているのも特徴です。市役所支所、公設市場、診療所、郵便局、駐在所などの公共施設も整備され、生活に必要なインフラが整った街づくりを目指しました。

街路樹と景観

団地内の幹線道路には、ケヤキ、イチョウ、ソメイヨシノなどの街路樹が多数植えられ、完成から数十年を経て、今では立派に成長しています。その美しい景観は、「枚方八景」の一つ「香里団地の並木」として選ばれ、「けやき通り」「いちょう通り」という愛称も付けられています。

水道と下水道

香里団地は、枚方市における公共下水道の発祥の地でもあります。1993年には香里中央雨水幹線が暗渠化され、その上に香里こもれび水路が整備されました。この水路は「出合いのプロムナード香里こもれび水路」として、平成5年度手づくり郷土賞を受賞しています。

老朽化と建て替え

長年を経た香里団地では、老朽化による建物の修繕や、生活様式の変化への対応が課題となってきました。当初は設置されていたダストシュートの廃止、エレベーターの不足、駐車場の不足など、設計当時の想定を超える問題も発生しました。

これらの問題に対応するため、1998年から大規模な建て替え事業が始まり、現在も継続中です。建て替え事業の一環として、一部の土地は民間企業に譲渡され、分譲住宅の建設も行われています。

歴史的遺産と戦争遺跡

香里団地には、旧香里製造所の遺構も残っています。収函室（香里ヶ丘診療所）、第三汽缶場煙突（妙見山配水場）などが現存する一方、他の建物は建て替えにより取り壊されています。敷地周辺の公園には、陸軍用地の標柱が一部残されており、歴史を偲ばせる痕跡となっています。

社会と生活

香里団地は、単なる住宅団地にとどまらず、地域社会を形成する上で重要な役割を果たしました。ダイニングキッチンなどの新しい住宅設備は、若い世代の人気を集め、枚方市を軍需工場の町からベッドタウンへと発展させる契機となりました。住民による自主的な活動も盛んで、全国初の零歳児保育所や、医療機関併設型病児保育室の設立などにも貢献しました。

交通

香里団地内には、東西南北に幹線道路が整備され、京阪バスが運行しています。バス路線は、枚方市駅、枚方公園駅、光善寺駅、香里園駅とを結んでおり、住民の日常生活を支えています。近年では、高齢者のための無料送迎サービスも開始されています。

まとめ

香里団地は、戦後の日本における大規模住宅団地の先駆けとして、都市開発や地域社会形成に大きな影響を与えました。老朽化による建て替え事業が進められていますが、その歴史的・社会的意義は、今後も大切に継承されていくべきでしょう。

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