馬武 (蝦夷)

馬武（まむ）の生涯とその事績

馬武は、飛鳥時代に津軽地方で蝦夷の長として知られる存在でした。特に、斉明天皇4年（658年）に津軽郡の大領に任命された際は、その後の蝦夷との関係の中でも重要な役割を果たした人物として記録されています。彼の名は『日本書紀』の斉明天皇4年7月の条にのみ見られることから、歴史的には非常に貴重な情報を提供していると言えるでしょう。

事績の詳細

馬武の名が史書に登場したのは、斉明天皇4年7月の記述だけです。この年、阿倍比羅夫が船団を率いて本州の日本海側を北上し、当地の蝦夷を降伏させ、その後の水軍のリーダーとしての役割を果たしたことが記されています。この4月には、阿倍比羅夫が齶田と渟代の蝦夷を従え、彼らとの協力体制を確立しました。このことが、その後の馬武の位置づけにも影響を与えたと考えられます。

この年の7月には、多くの蝦夷の代表者たちが朝廷に参上し、位を授けられました。その際、津軽郡の大領を務める馬武は、大乙上という高い位を受け、そのほかにも少領の青蒜が少乙下に昇進し、さらに勇健者たちが位を授かったとされています。つまり、馬武はこの年、蝦夷の中でも最も高い位に昇進したことになります。彼の地位は、他の蝦夷の指導者とも比較して高く、津軽地域の重要性を示すものでした。

考察と解釈

馬武という人物については、その地位の重要性に加え、彼が斉明天皇元年（655年）に既に位を授かっていた可能性も考えられています。この解釈が正しければ、馬武はこの年にさらなる高位を得たことを意味するとされ、彼の権力や影響力が一層強まった背景も示されています。歴史的な解釈の中では、馬武に関する記述が異なる年に重複している部分があるため、その分析においても異なる解釈の余地が生まれています。

一部の研究者は、斉明天皇4年7月の馬武に関する記録が元年7月の記事と重複していると考え、4月の任命は、実質的には当時の齶田の恩荷に関するものであるとする説も存在します。

脚注と参考文献

馬武の事績や蝦夷との関係の詳細を理解するためには、様々な文献を参照することが有効です。『日本書紀』の校訂や解釈に関する文献に加え、蝦夷に関する研究が掲載された書籍も重要な資源となります。これらの文献を通じて、飛鳥時代の蝦夷の歴史や、その中心的な人物であった馬武の存在意義について深く探求することができるでしょう。

• - 小島憲之・直木孝次郎・西宮一民・蔵中進・毛利正守　校訂・訳『日本書紀』、小学館（新編日本古典文学全集4）、1998年
• - 熊谷公男『蝦夷の地と古代国家』、山川出版社（日本史リブレット11）、2004年
• - 高橋崇『蝦夷　古代東北人の歴史』、中央公論社（中公新書）、1984年
• - 新野直吉『古代東北の開拓』、塙書房、1969年
• - 新野直吉『古代東北史の人々』、吉川弘文堂、1978年

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