馬渕玄三

音楽ディレクター馬渕玄三：昭和歌謡界の立役者

馬渕玄三（まぶち げんぞう）は、1923年7月に生まれ、1997年5月15日に亡くなった日本の音楽ディレクターです。彼は、五木寛之の小説に登場する「艶歌の竜」こと高円寺竜三のモデルとして広く知られています。

コロムビアでのキャリア

1948年、25歳で日本コロムビアに入社し、営業、販売、宣伝といった分野で10年間経験を積みました。1958年にディレクターに転身すると、その才能をすぐに開花させます。新米ディレクターでありながら、島倉千代子の『からたち日記』を手がけ、これが大ヒット。さらに、1960年には小林旭の代表曲『さすらい』も担当し、その名を歌謡界に轟かせました。1961年頃からは、美空ひばりを3年間担当し、彼女からの深い信頼を得るようになります。

日本クラウンの設立と数々のヒット

1963年9月、40歳の時にコロムビアを退社し、同社の常務取締役だった伊藤正憲と共に、日本クラウンの設立に参加します。ここでは、北島三郎や水前寺清子など、数々の大物歌手を手がけました。中でも、かぐや姫の『神田川』をシングル盤として発売する際、制作会議で「これは歴史に残る名曲になるだろう。これをシングル盤として出さなかったら会社の恥になる」と強く主張し、発売を後押ししたエピソードは有名です。その結果、『神田川』は120万枚を超える大ヒットとなり、馬渕玄三の慧眼が証明されました。その後も、山本譲二の『みちのくひとり旅』（1980年）のヒットに貢献するなど、数々のヒット曲を世に送り出しました。

日本クラウン設立のお祝いとして、日本コロムビア専属であった美空ひばりが、クラウンの第1回新譜の1番として『関東春雨傘』を吹き込んだことは、異例中の異例でした。これは、馬渕玄三と美空ひばりの間の揺るぎない信頼関係を示すエピソードとして語り継がれています。

「艶歌の竜」のモデルとして

五木寛之の小説『艶歌』（1966年）、『涙の河をふり返れ』（1970年）、『海峡物語』（1977年）、『旅の終りに』（1986年）に登場する主人公「高円寺竜三」は、馬渕玄三がモデルとなっています。映画やテレビドラマでは、芦田伸介、小林稔侍などが高円寺竜三を演じました。

その生涯を閉じる

1997年5月15日、馬渕玄三は73歳でその生涯を閉じました。同年6月21日にリリースされた小林旭のCDシングル『惚れた女が死んだ夜は』（ソニーレコード）が、彼の遺作となりました。

主要なディスコグラフィ

島倉千代子『からたち日記』 （日本コロムビア、1958年）
小林旭『さすらい』 （日本コロムビア、1960年）
小林旭『アキラのダンチョネ節』 （日本コロムビア、1960年）
美空ひばり『ひばりの佐渡情話』 （日本コロムビア、1962年）
水前寺清子『三百六十五歩のマーチ』 （日本クラウン、1968年）
石橋正次『夜明けの停車場』 （日本クラウン、1972年）
山本譲二『みちのくひとり旅』 （ポニーキャニオン、1980年）
島倉千代子『火の酒』 （日本コロムビア、1996年）
* 小林旭『惚れた女が死んだ夜は』 （ソニーレコード、1997年6月21日） - 遺作

馬渕玄三は、その情熱と才能で昭和歌謡界を牽引し、数々の名曲を世に送り出しました。彼の音楽に対する深い愛情と、アーティストを支える熱意は、これからも多くの人々に語り継がれることでしょう。

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