駄賃馬稼

駄賃馬稼 - 日本における古の輸送業

駄賃馬稼とは？

駄賃馬稼（だちんうまかせぎ）とは、近代以前の日本において、馬を利用して人や貨物の輸送を行う職業のことを指します。この業務に従事する人々は一般に「馬借（ばしゃく）」や「馬子（まご）」と呼ばれ、使用された馬は「駄馬（だば）」や「稼馬（かせぎうま）」、もしくは「荷馬（にうま）」と呼ばれました。こうした業務による報酬は「駄賃（だちん）」と名付けられています。

歴史的背景

日本の歴史を遡ると、馬は古くから人々の生活において重要な輸送手段でありました。たとえば、壬申の乱の際には、大海人皇子が伊勢国から大津京に米を運ぶ馬の行列に遭遇し、戦闘においてその馬を徴発したことが記録されています。この出来事は、当時の政府が大規模な物資の輸送を行う能力を有していたことを示しています。

律令制の時代になると、国司は地方の有力者から駄賃の引き換えに馬を徴発し、年貢を都へ運ぶ手段を確保しました。この頃、特に東国では「僦馬（しゅうめ）」と呼ばれ、輸送業務を請負う集団が現れるようになりました。さらに後の時代には、農閑期の農作業の合間に馬を使って荷物を運搬する農民が増え、彼らも同様に輸送を専門とするようになっていきました。

鎌倉時代に入ると、商業が活発化し、地方でも馬借のグループが現れるようになります。室町時代には、大和の地域において馬借の座が形成され、全国にこの職業が広がっていきました。戦国時代には、各大名が自身の軍事活動に伴い、輸送業者に対して特定の義務を課し、その引き換えに駄賃馬稼の営業を許可する制度が定着していきます。

江戸時代の変遷

江戸時代には、江戸幕府や諸藩が駄賃の公定を定め、悪質業者の排除に努めました。また、近隣の業者同士が連携をとることで、輸送の効率を高める取り組みも行われました。明治時代に揺るぎない地位を築いた馬による輸送は、その後鉄道の発展により次第に衰退していく運命にあります。

明治期には、旅行者のイザベラ・バードの『日本奥地紀行』において、女馬子についての描写があり、急な山道で馬が何度も滑り倒れたことが言及されています。彼女は日本政府に対して、装甲軍艦を買うよりも良い道路を整備することが物流の発展に寄与するとの意見を述べています。興味深いことに、本職の存在は第二次世界大戦においても残り、アメリカ軍を除き、多くの国で兵站輸送の手段として活用されていました。

駄馬と駄賃の関連性

「駄馬」という言葉は、元々質の悪い馬を指し、他の業務に適さない馬たちを意味しました。人間にとっても「駄賃」という言葉は、この輸送業務が人々の生活に密接に関連していたことから生まれたものであり、現代社会における「お駄賃」という発想にもつながっています。

職業の担い手である馬子は必ずしも高身分ではなく、服装も整っていませんでした。それにも関わらず、見た目を整えれば良く見えるという言葉「馬子にも衣装」もこの背景から生まれました。

結論

駄賃馬稼の歴史を紐解くと、近代以前の日本社会における輸送業の重要性や、経済交流における役割がいかに大きかったかが伺えます。時代と共に姿を変え続ける職業の歴史は、私たちの社会の背景を知る手助けとなるでしょう。

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