駒 (将棋)

将棋駒：歴史と文化、そして匠の技

将棋駒は、古くから伝わる日本の伝統工芸品です。独特の五角形の木片に書かれた文字で識別され、将棋盤上で用いられる重要なアイテムです。この記事では、将棋駒の歴史、製造工程、種類、そして駒師と呼ばれる職人たちの技について詳しく解説します。

歴史：平安時代から現代へ

将棋駒の歴史は古く、平安時代にまで遡ります。奈良県興福寺跡からは、11世紀頃に作られたと推定される駒が出土しており、既に現在の五角形に近い形状をしていたことが分かっています。

戦国時代には、水無瀬兼成による高価な書き駒が珍重され、足利義昭や徳川家康も注文していた記録が残っています。江戸時代には庶民向けの番太郎駒や源平駒が普及しました。

明治時代以降は、実用品としてだけでなく、工芸品としての価値も認められるようになり、初代豊島龍山ら駒師によって、盛り上げ駒などの技法が確立されました。現代では、テレビ中継に適した一字駒や、大量生産が可能なプラスチック駒、さらには国際的な普及を目的とした国際将棋駒なども作られています。

将棋の町・天童

現在、日本の将棋駒の約9割を生産しているのは山形県天童市です。天童における将棋駒作りの歴史は古く、18世紀には既にその技術が伝わっていたと考えられています。天童藩の財政難を打開する策として、当時流行していた将棋に着目し、武士に駒作りを奨励したのが始まりと言われています。

初期の天童駒は、地元の山で採れた雑木を材料とし、独自の草書体で文字が書かれていました。明治時代中期以降は、東京から楷書体の技術が伝来し、大正時代には彫り駒も作られるようになりました。近年では、押し駒や機械彫りの駒が増え、伝統的な書き駒の職人は減少傾向にあります。1996年には、天童の将棋駒は伝統工芸品に指定されました。

製法：材質と技

将棋駒の材質は、高級品にはツゲ（本黄楊）、特に御蔵島産や薩摩産のものが使われます。普及品にはシャム黄楊やホオノキ、カエデなどが用いられます。また、木地の模様である「斑（ふ）」や「杢（もく）」は、高級品として珍重されます。

駒の書体は、基本となる上彫から、普及品の中彫、並彫、黒彫へと簡素化されていきます。高級品には、錦旗、昇龍、水無瀬などの様々な書体が用いられ、駒師の技が光ります。

駒師：匠の技

プラスチック駒やスタンプ駒を除き、中級品以上の将棋駒は、ほとんどが駒師と呼ばれる職人による手作業で作られています。彫り駒は、木地を彫り、漆を塗り、研磨することで作られます。書き駒、彫り駒、彫り埋め駒、盛り上げ駒など、様々な技法が存在します。

駒箱と駒袋

将棋駒は、対局時には、金襴などの巾着袋に入れられ、駒箱に収納されます。駒箱は黒柿や神代欅などの銘木を用いた漆塗りのものが高級品として珍重され、職人の技が光る工芸品です。

用語解説

持ち駒、合駒、成駒、質駒、隠し駒、捨て駒、遊び駒、邪魔駒など、将棋には様々な用語が存在します。

その他

先後を決める振り駒、テレビ中継などで使用される一字駒、縁起物とされる左馬、根付など、将棋駒には様々なバリエーションが存在します。

参考文献

斎藤隆一、堀進 著、天童市将棋資料編集委員会 編『天童の将棋駒と全国遺跡出土駒：将棋駒のルーツを探る』天童市将棋資料館、2003年
原田泰夫（監修）『日本将棋用語事典』東京堂出版、2004年
* 増山雅人『将棋駒の世界』中央公論新社、2006年

この記事は、将棋駒に関する歴史、製造、種類、職人技など、多角的な視点から解説することを目指しました。日本の伝統工芸の魅力を伝えるとともに、将棋という文化の奥深さを再認識する機会となれば幸いです。

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