駒場農学校

駒場農学校とは

駒場農学校（こまばのうがっこう）は、近代日本がその歩みを始めた明治時代に設立された、重要な旧制教育機関です。1878年、東京の駒場野（現在の目黒区上目黒付近）に、それまで新宿にあった農事修学場を引き継ぐ形で開校しました。この学校は、日本の農学に関する教育と研究が本格的に開始される黎明期において、その基礎を築く役割を果たしました。

日本農学の礎として

当時の日本は、欧米から新しい知識や技術を積極的に取り入れており、農業分野も例外ではありませんでした。駒場農学校は、近代的な農学教育の場として設立され、日本初の総合的な農学教育・研究機関としての性格を持っていました。

同時期に、クラーク博士で知られる札幌農学校が主にアメリカ式の農法を教育の柱としたのに対し、駒場農学校は、主にドイツの農法を手本としました。学校の施設は非常に充実しており、欧米の新しい農作物を試植する「泰西（たいせい）農場」や、日本の伝統的な農法を改良・研究する「本邦農場」といった試験農場のほか、園芸・植物園、家畜病院、さらには気象台まで備え、多角的な視点から農業の教育と研究を行える体制が整えられていました。開校当初は約6万坪の敷地を有していましたが、その後拡張が進み、1884年には16万5千坪という広大な面積に達しました。この広大な敷地と充実した施設は、当時の日本の農業技術向上と人材育成に大きく貢献しました。

沿革

駒場農学校の設立に至る背景には、明治政府による近代化政策がありました。1873年に設立された内務省は、農業や牧畜の分野で西洋式の技術導入を積極的に推進します。

• - 1874年：内務省勧業寮の管轄下に置かれた内藤新宿出張所（現在の新宿御苑の場所）に、農事修学場が設置されました。
• - 1878年：この農事修学場が駒場野に移転し、「駒場農学校」として新たなスタートを切りました。
• - 1881年：農商務省が設立されると、駒場農学校はその管轄下に移行しました。

しかし、当時の政府財政は決して潤沢ではなく、財政的な理由から教育機関の再編が進められました。1886年には、東京山林学校と統合され、「東京農林学校」となりました。さらに1890年、この東京農林学校は帝国大学（後の東京帝国大学）に組み込まれ、農科大学として再編成されました。

このように、駒場農学校は短い歴史ながらも、その後の日本の高等教育機関における農学部の形成に直接つながる重要な位置を占めていました。

現在の姿と関連する人々

駒場農学校が存在した広大な敷地は、現在では東京大学駒場地区キャンパスの一部や、駒場野公園、駒場公園などとして利用されています。当時の面影を残す場所もあり、近代農学発祥の地としての歴史を感じさせます。

駒場農学校は、近代日本の農学が確立される黎明期において、その発展に極めて重要な役割を担い、今日の農学の礎を築きました。この学校からは、日本の農業や学術に貢献した多くの著名人が輩出されました。代表的な人物としては、日本における「三老農」の一人に数えられる群馬の農民、船津傳次平や、日本の稲作研究に貢献し水田にその名を残したオスカル・ケルネル、種籾の選別法である塩水選を考案し、後に東京農業大学の初代学長を務めた横井時敬などが挙げられます。また、後に第8代日本銀行総裁となった三島彌太郎も関係が深い人物です。

駒場農学校は、その後の東京大学農学部、筑波大学生命環境学群生物資源学類、東京農工大学農学部など、現在の多くの農学系学部・学科の前身にあたり、日本の農学研究と教育の歴史において、極めて重要な位置を占める存在と言えます。

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