騸馬

騸馬：去勢された牡馬のすべて

騸馬（せんば）とは、去勢された牡馬のことです。扇馬と呼ばれることもあります。馬の去勢は、古くから行われてきた技術で、家畜としての管理や軍馬の扱いやすさ、繁殖力の制御などを目的としていました。遊牧社会では、繁殖用を除く牡馬の多くが去勢されていました。軍隊では、気性の抑制や敵への繁殖資源の奪取防止、発情期の興奮の抑制などの理由から、牡馬の去勢は一般的でした。競走馬が乗馬に転用される際にも、元種牡馬を含む多くの牡馬が去勢されるのが一般的でした。

歴史

馬の去勢の起源は古く、中国の秦の時代にはすでにその技術が存在していたと考えられています。兵馬俑の中には、騸馬であると指摘されているものもあります。

日本における騸馬

日本においては、明治時代まで牡馬を去勢する習慣は一般的ではありませんでした。しかし、江戸時代にはすでに去勢に関する知識や技術が存在していたことが、いくつかの文献から示唆されています。例えば、1656年の川越城の厩における記録には、人にかみつく馬4頭への去勢が行われたことが記されています。また、『元享療馬集』や『馬経大全』といった中国から伝わった書物にも、馬の去勢に関する記述があり、日本への技術伝播を示唆しています。

日清戦争後、日本の軍馬が獰猛であるという批判を受け、馬匹去勢法が制定されました。この法律により、計画的な去勢が行われるようになり、大型で従順な西洋馬が優先的に残されるようになりました。その結果、南部馬などの日本在来馬は絶滅あるいは絶滅寸前に陥りました。馬匹去勢法は昭和24年に廃止されています。

競馬における騸馬

競馬界では、気性を穏やかにし、競走馬としての扱いやすさを向上させるために、繁殖価値が低いと判断された牡馬の去勢が行われます。去勢された牡馬は、種牡馬となることができず、多くの国では、種牡馬や繁殖牝馬の選定を目的としたクラシック競走などへの出走が制限されています。種牡馬の需要は競走馬に比べて少ないため、種牡馬となる競走馬は全体の1％未満です。そのため、種牡馬選定の期間が過ぎた4歳以上の牡馬は、多くの国で去勢されるのが一般的です。G1競走優勝馬や凱旋門賞3着馬が去勢された例もあります。

障害競走馬については、競走中の危険性を減らす目的から、多くの国では去勢が行われます。しかし、日本では繁殖価値の有無に関わらず、現役競走馬への去勢は少なく、気性難や馬っ気への最終手段として行われることが多いです。これは、気性難を競走能力の一部と見なし、それを乗りこなすことを騎手の腕前と見なす日本独自の風潮が背景にあります。

中央[[競馬]]のGI競走では、牝馬限定競走やクラシック競走への騸馬の出走は制限されています。これは、優秀な種牡馬や繁殖牝馬を選定するための措置です。しかし、一部のトライアル[[競走]]では騸馬の出走が認められており、馬齢や性別の制限がない競走では出走可能です。天皇賞についても、2008年から春・秋とも騸馬の出走が認められています。

海外では、競走馬としてデビューする前から去勢を行うのが一般的です。アメリカでは特に多くの著名な騸馬が活躍しており、20世紀のアメリカ名馬100選のうち11頭が騸馬です。香港やシンガポールでは、馬産が行われていないため、競走馬の牡馬はほぼ全て去勢されています。

種牡馬を引退した牡馬は、多くの場合、去勢されます。サクラユタカオーやタイキシャトルといった名馬も、引退後に去勢されています。

著名な騸馬

日本と海外で活躍した多くの著名な騸馬がいます。（本文に記載されている馬のリストは省略）

漢字表記について

「騸」という漢字は、JIS X 0208には収録されていません。そのため、「せん馬」や「セン馬」と表記されることも多いです。「騸」はUnicode、JIS X 0212、JIS X 0213に収録されています。「騙馬」と表記されることもありますが、これは誤りです。

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