高井忍

高井忍

高井忍（たかい しのぶ、1975年 - ）は、京都府出身の日本の小説家、推理作家です。立命館大学産業社会学部を卒業後、2005年に東京創元社主催の第2回ミステリーズ!新人賞を短編「漂流巌流島」で受賞し、デビューを果たしました。本格ミステリ作家クラブの会員でもあります。

作風

高井忍の作品は、歴史上の実際の事件を題材にした歴史ミステリーが中心です。デビュー以来、出版社からの要請に応え、このジャンルを追求してきました。ただし、歴史の検証や突飛な珍説自体に興味があるわけではなく、作中で展開される解釈も一部を除いて自身は信用していないと述べています。

一方で、高井忍は偽史や歴史系のトンデモ説に対しては全般的に否定的な立場を取っており、強い不快感を表明しています。『本能寺遊戯』や『蜃気楼の王国』以降は、特に偽史批判の傾向が顕著です。

歴史ミステリーについて、高井忍は、歴史の真実や検証を掲げていても、それは建前に過ぎず、正史は間違いだという前提で、読者の興味を引くような結論を導き出すことが当初からの目的だと説明します。本質的には偽史であり、歴史のオカルトであると捉えています。読者に対しては、本当に歴史の真相に関心があるのなら、専門書や入門書を読むように勧めています。

『浮世絵師の遊戯』の巻末には、「本書はあくまでフィクションであり、歴史上の実際の出来事の検証を目的とはしておらず、初めから珍奇な解釈をかかげることによって読者の興味を惹こうとの意図から創作されたものである。よって、考証の上の信頼性についてはいっさい責任を負わない」という但し書きを加えています。これに対する批判に対しては、「いままでの研究は間違いだ、専門家は信用ができないとでも書いておいたら満足するのだろうか？」「こうしたものをまさか彼らは本気にして読んでいるのだろうか？」と反論しています。

浮世絵師である東洲斎写楽の正体については、斎藤十郎兵衛説を支持しています。しかし、写楽を世界三大肖像画家の一人とする通説については、提唱者とされるユリウス・クルトの著作にそのような記述が存在しないことを指摘し、日本国内から広がった偽史であると主張しています。

作品リスト

歴史ミステリ（メタフィクションを含む）

漂流巌流島 （ミステリ・フロンティア、東京創元社、2008年7月　のち創元推理文庫）
亡霊忠臣蔵
慟哭新選組
彷徨鍵屋ノ辻
本能寺遊戯 （東京創元社、2013年2月　のち創元推理文庫）
浮世絵師の遊戯　新説　東洲斎写楽（文芸社、2016年11月　のち文芸社文庫）
近江屋 一八六七年 百五十年の真相（文芸社、2017年11月）
京都東山　美術館と夜のアート（創元推理文庫、2019年1月）

歴史・時代小説

柳生十兵衛秘剣考 （創元推理文庫、2011年2月）
蜃気楼の王国（光文社、2014年2月　のち光文社文庫）
柳生十兵衛秘剣考 水月之抄（創元推理文庫、2015年6月）
名刀月影伝（角川文庫、2016年11月）
妖曲羅生門　御堂関白陰陽記（光文社、2017年9月）

単行本未収録

鹿島神道流〝一ノ太刀〟（ミステリーズ! vol.62　DECEMBER 2013、2013年12月）
東洲斎写楽「伝説」考（歴史研究　第675号、2019年10月）
円明流宮本武蔵（妖ファンタスティカ2、2019年11月）
東洲斎写楽歿後二百年（歴史研究　第679号、2020年3月）
仲田勝之助と「寫樂」（歴史研究　第691号、2021年5･6月）

アンソロジー

ベスト本格ミステリ2011（講談社ノベルス、2011年6月） - 「聖剣パズル」
ザ・ベスト・ミステリーズ 2012 推理小説年鑑（2012年7月 講談社） - 「新陰流“月影”」
ベスト本格ミステリ2016（講談社ノベルス、2016年6月） - 「新陰流“水月”」
ヤオと七つの時空の謎（2019年10月 南雲堂） - 「天狗火起請」

もう一度検索