高山廣子

高山廣子（1919年生まれ）は、昭和の日本の映画界で長く活躍した女優です。本名は仲上ヤスエとして生まれ、結婚後は上田ヤスエとなりました。キャリアを通じて、仲上八洲子、藤原八洲子、君千代、そして後年には高山裕子といった異なる芸名で活動しました。出身は現在の福岡県飯塚市にあたる場所です。

彼女の俳優としての歩みは、1927年、わずか8歳の時に始まりました。妹と共に京都の阪東妻三郎プロダクションに入り、子役の仲上八洲子として銀幕デビューを果たしました。映画界を一時離れ、キャバレーの舞踏団に参加し、「君千代」という名前で舞台に立った時期もあったようです。1930年には帝国キネマ演芸に移籍しています。

1931年、帝国キネマが新興キネマへと改組されるのに伴い、高山も同社に継続して入社し、この時「高山廣子」と改名しました。新興キネマ時代は彼女のキャリアにおいて非常に重要な時期であり、多くの作品で主演や主要な役柄を務めました。特に1939年の映画『阿波狸合戦』と『狸御殿』で演じたタヌキのお姫様、お黒役は彼女の当たり役となり、広く人気を博しました。この時期、大谷日出夫や大友柳太郎、市川右太衛門といったスター俳優の相手役を数多く務め、時代劇を中心にその存在感を示しました。

1942年、戦時体制下での映画会社統合により大映が設立されると、高山は大映京都撮影所に所属することになりました。ここでも引き続き主要な女優として、『維新の曲』では桂小五郎（市川右太衛門）の相手役である幾松を演じ、またしても『歌ふ狸御殿』でお黒役を再演しました。しかし、私生活では大きな試練が訪れます。1943年に上田躬荘氏と結婚した翌年、敗血症により左足首を切断せざるを得ない状況に陥りました。この出来事は、文豪大佛次郎の日記にも言及されるほど、当時の映画界に衝撃を与えたようです（関係者の中には両脚を切断したと回想する人物もいます）。

第二次世界大戦後も、高山は女優としての活動を継続し、大映や東横映画の作品に出演しました。そして1953年、34歳となった彼女は松竹京都撮影所へ移籍します。この移籍を機に、芸名を「高山裕子」と改め、これまでの主演・準主演級の役柄から、ベテラン脇役へと転身しました。松竹時代もコンスタントに映画に出演し、円熟した演技を見せました。1965年、46歳での出演作『いも侍・抜打ち御免』を最後に、女優業から完全に引退しました。

引退後の高山の消息はほとんど分かっていません。1980年に発行された『日本映画俳優全集・女優編』には、京都市内に存命の人物として連絡先が記されていましたが、それ以降の足取りは不明です。正確な没年も明らかになっていません。

高山廣子は、子役から始まり、様々な芸名と困難を乗り越えながら、日本の映画史に確かな足跡を残した女優です。特に新興キネマ時代の輝きと、「狸のお姫様」としての印象は、多くの映画ファンに記憶されています。彼女の出演した作品の多くは現在も保存されており、その波乱に富んだキャリアの一端を垣間見ることができます。

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