高度化PHS

高度化PHSとは

高度化PHSは、従来のPHS規格を拡張し、高速無線アクセスを実現するために開発された技術です。PHSの基本的な枠組みを維持しながら、変調方式や周波数帯域幅を改良することで、データ伝送速度の向上を目指しました。

開発の経緯

2000年前後、旧郵政省・総務省の情報通信審議会で高度化PHSの構想が提案され、推進されました。新たな周波数帯域も割り当てられましたが、実際のサービス開始は2006年2月のウィルコム（現ソフトバンクのY!mobile部門）によるW-OAMサービス開始まで待つこととなりました。この技術は日本国内でのみ推進・事業化され、2021年1月31日にPHSサービスが終了しました。

技術的詳細

従来のPHSでは、TDMA/TDD方式で1スロットあたり32kbpsのデータレートでした。高度化PHSでは、最大32QAMの変調方式、最大884kHzの周波数帯域幅、ロールオフ率やスロット構成の変更などの技術的条件が示されました。これにより、ユーザーレートで最大1Mbps程度の高速データ伝送が可能になりました。

実験機によるフィールドテストも実施され、適応変調方式（最大16QAMから最低π/4 DQPSK）を用いた「タイプ1」と、さらにトラフィックチャネルの帯域幅を広げた「タイプ2」の高度化が検証されました。しかし、PHS市場の低迷により、高度化PHSのサービス展開は一時停滞しました。

2005年2月、ウィルコムが「8xパケット方式」を開始し、D8PSK変調方式を採用した高度化PHSが発表され、最大384kbpsのスループットを実現しました。また、公衆PHSサービスには64QAM、256QAMの高効率変調方式が追加され、1チャンネルあたり最大96kbps、128kbpsの通信が可能となりました。これにより、多重化を利用することで1Mbps以上の伝送速度が実現可能になりました。制御チャネルについても、よりシンプルな変調方式や空中線利得の向上が行われ、到達範囲が拡大されました。

2006年2月23日、W-OAMとして高度化PHSのサービスが開始され、最大スループット（理論値）はD8PSK/8x通信時で408kbpsとなり、第三世代携帯電話（W-CDMA）の標準的な最大スループットを上回りました。ウィルコムは将来的に1.5Mbpsの実現を目指していましたが、事業化には至りませんでした。

高度化PHSでは、QAMやD8PSKなどの変調方式に加えて、π/2 DBPSKも採用され、通信状況に応じて変調方式を切り替える適応変調方式が採用されました。

PHS制御チャネル移行

2001年6月25日の総務省情報通信審議会の答申では、PHS帯とIMT-2000帯域との干渉問題を解決するため、PHSの制御チャネルを低い周波数帯域に移動させることが決定しました。これにより、2012年2月29日にDDIポケット時代の端末の多くが使用停止となり、同年3月1日以降、新周波数帯での運用に完全移行しました。

その他の情報

一部メディアではiBurstが高度化PHSとして報道されましたが、iBurstはTDD-TDMA方式以外に共通点が少なく、規格にも適合していません。高度化PHSは、PHSの技術を改良し、高速データ通信を可能にした技術であり、その開発と展開は日本国内に限られていました。

略歴

2001年6月25日：総務省が技術的条件を告示。
2002年7月25日：三洋電機による実験機でフィールドテスト。
2005年2月：ウィルコムが8PSK採用の高度化PHSを発表。
2005年7月：京セラが高度化PHS対応基地局を出荷。
2006年2月23日：ウィルコムがW-OAMサービスを開始。
2007年12月：京セラが光回線IP化高度化PHS基地局を量産開始。
2021年1月31日：PHSサービス終了。

関連項目

ウィルコム
W-OAM
適応変調
PHS
移動体通信：規格の比較

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